第87回日本プロゴルフ選手権(2019年)
2020.08.18
優勝トロフィーを掲げる石川遼(写真提供:日本プロゴルフ協会)
石川遼、劇的プレーオフ制し初優勝
鹿児島・いぶすきGC開聞コース(7212/7150ヤード、パー70/71)で行なわれた大会は、豪雨によって大会前にスケジュールを変更する事態になった。活発な梅雨前線によって、大会直前に鹿児島県が自衛隊に災害要請し、指宿市には避難勧告が出されて、7月2日のプロアマ大会は中止。「人命の安全とトーナメントを開催できる状況は別である」とのPGAの判断により「予選第1ラウンドは明日3日の木曜日から金曜日に順延され、土曜日に同第2ラウンド、日曜日に第3、4ラウンドの36ホールを行いたい。月曜日の予備日を使用することも検討しながら、54ホールのプレー、それも叶わなかった時には36ホールになる」と倉本会長が天候によってその都度の変更を表明した。また、8番ホール(530ヤード)を天候などによってパー4とパー5を切り替えて使用することになった。第1ラウンドは1日順延して行われた。首位に立ったのは3人。石川遼、50歳になった藤田寛之、黄重坤(韓国)が6アンダー65をマークした。
石川はインスタート、10、11番連続バーディーで滑り出し、インを4アンダーで折り返した。1番で左OBにしたが、3メートルのボギーパットを沈めて最小限にとどめたのが大きかった。練習ラウンドは他の選手同様にできなかったため、第1ラウンドで初めてコースを回った。「僕にはこれくらい(初ラウンド)が丁度いいのかと思う。(コースを)知らないからこそ、見える範囲に打って行くという危機管理能力が発動されますから」と話した。65は「苦手」としている日本プロでの最少スコア。「(日本プロゴルフ選手権は)1回は勝ちたいと思います。日本オープン、日本ゴルフツアー選手権も生涯を通して全て勝つのが目標でもあるので」と意気込みを見せた。
藤田は「ライバル」谷口徹が前年大会を50歳で制したのが刺激になっていた。インスタートの前半を4アンダーで折り返し、この日はパー5に設定された8番で8メートルのバーディーパットを沈めて一時7アンダーまで伸ばした。最終9番で第1打をバンカーに入れてボギーにして65。「寄せ切れず入れ切れずのボギー。それまでは非常に良いゴルフだったんですけどね」と悔しがった。視力の衰えをカラーボールでカバーするなど「この歳になると日々の体調が良い時もあれば悪い時もある。それを受け入れるようにして、その時の調子に応じてプレーしていますが、今日はショットが安定していましたね」と振り返った。
黄は折り返した1番から3連続バーディーなどで首位に並んだ。「昨日は練習場でボールを打っただけで、今日はぶっつけ本番でのラウンドです。イメージ通りのショットが打ててフェアウエーから2打目を打てたのが良かったです」と話した。「日曜日36ホールになったらどうしよう。コースの起伏に体力が持つかどうか。だって僕は体重が重いので若さは関係ありませんから」と笑った。
第2ラウンドは石川と黄が通算10アンダーで首位を守った。石川は17番で池に入れて何とかボギーで切り抜け、最終18番パー5で2オンしてバーディーで締め、この日4アンダー67で回った。
首位に並びかけたのが、5アンダー4位からスタートした27歳の北村晃一。最終18番で第1打、第2打とミスしたが、50ヤードほどの打ち上げの第3打でカップのすぐ横につけるショットを見せて66をマークした。この年のツアー初戦で前年のPGA後援競技「北陸オープン」で優勝して出場権を得た。神奈川県の桐光学園高時代に2度、甲子園の土を踏んだ。二塁の守備固め要員としてベンチ入りしている。自身初の最終日最終組となり「暑さには強いと思っています。高校野球部時代は夏が本番でしたし、グラウンドに比べたらゴルフ場は涼しい。でも、精神的なスタミナが持つかな…。優勝の自信? それは全くありませんが、頭の中をクリアにして、打ち急いだり、パニックになったりすることがなければ、今の調子ならある程度のスコアを出せるかなという自信はあります」と意気込みを見せた。
大会最終日は、第3、最終ラウンドの36ホールの長丁場の戦いになった。午前6時から始まった第3ラウンドでは、5つスコアを伸ばした時松隆光が、通算13アンダーで単独首位に立つ。1打差2位には、松原大輔と黄が並んだ。
首位スタートの石川はスコアを1つ落とし9アンダー6位タイとなった。5、6番で連続ダブルボギーを叩き、一時は首位と7打差に後退した。「こんなに酷い流れで、あと20ホールもプレーするのか。落ちるところまで落ちるかもしれない」という思いが頭をかすめたというが「流れの悪さが原因ではない。スイングを、ショットを取り戻したなら」と前向きに考えて徐々に取り戻し、16番から3連続バーディーで息を吹き返した。
最終ラウンドは気温30度の中での消耗戦となり、上位がスコアを伸ばせない中で最終組の石川と黄の争いになった。2打リードしていた黄は、17番パー3でいったんグリーンに乗せたが、ボールが転がって戻り、池に入れてダブルボギーにし、石川と並んだ。迎えた最終18番パー5。ともに2オンに成功するバーディーで通算13アンダーで並び、18番繰り返しのプレーオフに突入した。
1ホール目、石川の第1打は右のカート道方向に飛び、左に跳ねる幸運もあって「第3ラウンドより40ヤードは前に行っていた」という。黄は2オンしたが、グリーンに乗っただけで10メートル以上のイーグルパットになった。石川は残り200ヤードを5番アイアンでピン奥4メートルに2オンした。
先にパットした黄はイーグルを逃した。決めればウイニングパットになる石川。「今まで一番興奮したかもしれません」と振り返る。カップに沈んだ瞬間、両手を高々と挙げて万歳、そして右こぶしを突き上げ、最後は両こぶしを握りしめて何度も何度も喜びを表した。
劇的な幕切れに「日本プロで勝つ日がこんなに早く来るとは…」と石川の目から涙があふれた。
プロフィル
石川遼(いしかわ・りょう)1991年(平成3)年9月7日生まれ、埼玉県出身。杉並学院高1年の2007年、マンシングウエアKSBカップをアマチュアで制し、人気が爆発。プロツアーでの世界最年少優勝記録(15歳245日)になった。翌08年プロ転向してツアーデビュー、1勝を挙げて賞金は1億円を突破した。09年には4勝を挙げて1億8352万円余で賞金王を獲得。10年の中日クラウンズでは最終日に58のツアー新記録で優勝した。13年から米ツアーに挑戦したが、思うような結果が出せなかった。16年に腰を痛めてツアーを離脱、17年に国内で復帰した。18、19年にはJGTO選手会長を務めている。ツアー通算17勝。
第87回日本プロゴルフ選手権
順位 | 選手名 | Total | Round |
---|---|---|---|
1 | 石川 遼 | 269 | = 65 67 71 66 |
2 | 黄 重坤 | 269 | = 65 67 68 69 |
3 | 星野 陸也 | 271 | = 67 67 67 70 |
4 T | 藤田 寛之 時松 隆光 S・ノリス |
272 | = 65 70 69 68 = 66 68 65 73 = 68 65 69 70 |
7 T | 比嘉 一貴 趙 珉珪 D・ブランスドン 今平 周吾 |
273 | = 71 68 68 66 = 67 69 70 67 = 66 70 68 69 = 66 69 68 70 |