1995年5月15日付スポーツニッポン

佐々木久行が５打差大逆転で初優勝

　日本プロが初めて青森県で開催された。５月11～14日、青森・夏泊ＧＬ（7058ヤード、パー72）で行われた。
　第1日、話題をさらったのは54歳の金井清一だった。93、94年のシニアツアー賞金王が、５アンダー67で回って２位でホールアウト。ツアー初優勝が72年のこの大会、２勝目も76年のこの大会。19年ぶりの優勝となれば最年長、最長間隔にもなる。インスタートで34をマークして折り返した後、アウトで大ベテランの技をみせた。３番７メートル、５番１・５メートル、８番３メートルときわどいパーパットを沈めた。最終９番では奥のグリーンエッジから第３打を直接入れるなど３バーディーの33で回った。日刊スポーツ紙に「打ちすぎたと思ったらピンに当たって入った。日本プロだからツキがあるんだよ」とコメントしている。首位には１、10番のパー５で２イーグルを記録した28歳の鈴木亨が７アンダー65で飛び出した。
　鈴木亨は第２日も好調を維持。16番パー５では９メートルのイーグルを決めるなど、連日の7アンダー65で通算14アンダーにスコアを伸ばした。２位の伊澤利光、高見和宏に７打差とぶっちぎりの態勢。「初日トップに立って、興奮して眠れなかった。初日から眠れないなんて初めての体験です」とスポーツニッポン紙は伝えている。第１日２位の金井は78をたたき、１打足りずに予選落ちして日本プロ3勝目はならなかった。
　第３日、鈴木亨の独走態勢が崩れた。予選ラウンド2日間で３イーグル、10バーディーを奪った攻撃ゴルフだったが、この日は影をひそめた。「ショットはいいんですけど、グリーンに上がると思うところに打てない」と、タイトルのプレッシャーか、バーディーなしの74。通算12アンダーに後退し、首位は守ったものの混戦を作り出し「これで勝てなきゃ、泣いちゃう」とコメントした。１打差の２位に浮上したのが35歳の高見。スタート1番パー５で手前グリーンエッジから12メートルの第４打が直接入ってピンチがバーディーになったのが大きかった。５バーディー、１ボギーの68で回り、スタート前に鈴木亨と７打差あったのが1打差に。「若い鈴木君には優勝は待ってもらいたい。明日は優勝ジャケットを着て、インタビュールームに来ます」と強気のコメントをしている。２打差３位に水巻善典がつけた。
　最終日、劇的ドラマが待っていた。５打差４位でスタートした30歳の佐々木が「サンデーバックナイン」で猛チャージを見せた。10番で12メートルの第３打をチップインイーグル。11番でバーディーを奪って通算12アンダーとした時点で、首位に立っていた高見に２打差に迫る。圧巻は15番。残り約70ヤードの第２打が２段グリーンの右奥に切られたカップに吸い込まれるイーグル。一気に首位に並んだ後、16番パー５を取り、17番パー３で３・５メートルを決めて一気に抜け出した。インを29で回り、終わってみれば高見に４打差、通算16アンダーで鮮やかな逆転優勝。前年の日本シリーズに続く公式戦２勝目を挙げた。
　「まさかと思っていたのでうれしい。下から追い上げるのが向いているみたいですね」と、スポーツニッポン紙は伝える。日本シリーズでも７打差を逆転していた。子供のころに両親を亡くし、定時制高校に通って東京・五日市ＣＣの研修生を経て1986年にプロ入りした。当初はまったく稼げなかった苦労人。1993年には長男を心臓疾患で亡くしている。急激に力をつけた佐々木は「ＡＯＮの次の世代の旗手」と期待された。その後、ツアー1勝にとどまったが、米ツアーに挑戦するなど活躍の場を広げた。
シニア入りを目前にし、タイでトレーニングを行っていた2013年１月３日、ホテルの自室から出てこないのを不審に思った友人が迎えに行ったところ、ベッドで倒れていた。病院に搬送されたが、心不全で急死。享年48歳。あまりに早く、惜しまれる死だった。

プロフィル

佐々木久行（ささき・ひさゆき）
1964年11月27日生まれ、東京都出身。羽村一中時代まで野球をしていたが、両親が他界し、定時制高校に通いながら五日市ＣＣで研修生となり、キャディーをしながら練習。1986年に４回目のプロテストに合格。94年日本シリーズで初優勝。95年日本プロを制し、94年日本プロ覇者合田洋の指名でワールドカップ代表となり団体３位、個人ではプレーオフで敗れたが２位に食い込んだ。ツアー通算３勝。2013年、48歳で心不全のため死去した。

第63回日本プロゴルフ選手権