1993年5月17日付スポーツニッポン紙

2万人観衆の中、尾崎将司が大会最多5度目Ｖ、通算80勝の区切り

　尾崎将司が大会史上最多の５度目の優勝を果たした。
　兵庫・スポーツ振興ＣＣ山の原Ｃ（6840ヤード、パー72）で行われた大会第１日、午前７時50分スタートの第１組、33歳の真板潔がスタート10番で残り105ヤードの第2打を直接入れるイーグル発進。右のラフから半分沈んだボールをピチングウエッジでのショットに「ヨーイドンの一発は気持ちがいい」と日刊スポーツ紙に振り返った真板は、勢いに乗って12、13、15番と取ってインを31で回るなどこの日５アンダー67をマークして首位に立った。1打差２位につけたのが尾崎将。９番でＯＢをたたいたが、17番パー５（506ヤード）でシーズン５発目のイーグルを奪うなど68で回った。同紙によると「ゴルフは安定している。9番は色気を出して左を狙いすぎた」とコメント。宮本留吉、戸田藤一郎、林由郎、中村寅吉と並ぶ大会最多４勝から抜け出すには「どこまで辛抱できるか」と話している。２打差に５人、３打差に11人がつける混戦の展開。杉原輝雄が腰痛のためアウトを終えて棄権した。
　第２日は強風と雨のコンディションとなり、78をたたいて後退した真板に代わって、また1人若手が首位に躍り出た。日大出身で28歳の米山剛が70で回り、通算５アンダーとした。日大時代に学生５冠を達成するなど鳴り物入りでプロ入りしたが、ツアー７年目で未勝利。ホールアウト後に日大の先輩湯原信光とビールで乾杯し「上出来じゃないですか」と話している。１打差２位にＢ・ジョーンズ、Ｂ・ヒューズの外国人勢がつけ、尾崎将は一時首位に立ったが17番で池に入れ、18番では右の林に打ち込む連続ボギーで通算３アンダーの４位に。11番までに５バーディーを奪って通算５アンダーで尾崎将に代わって一時首位に立った中嶋常幸も14番で右隣の11番に打ち込むダブルボギーなどで結局通算イーブンパーの12位に後退した。
　第３日はその尾崎将、中嶋が浮上する。中嶋はスタート１番からの連続バーディーなど８バーディー１ボギーの65をマークし、通算７アンダーの２位につけた。尾崎将は４番で３メートルを入れてから３連続バーディーなど７バーディー、２ボギーの67で回り、通算８アンダーにスコアを伸ばして首位に立った。尾崎将が首位と知った中嶋は「明日は牛若丸のように橋の上でヒラリと飛びたい」と言ったのに対し、尾崎将は「眼鏡をかけた牛若丸なんてみたことねえよ。まあ、おれには弁慶が似合うけどな」と応じたとスポーツニッポン紙は伝えている。陳志忠が中嶋と並んで２位、第２日首位の米山は２打差４位に後退した。
　最終日は「ＯＮ対決」で２万６８１人のギャラリーが詰めかけた。その熱気もあって、尾崎将、中嶋、陳の最終組が激戦を展開した。陳が一時10アンダーで抜け出したが、15番パー５（505ヤード）の第２打を右にＯＢでボギーとした。中嶋の15、16番連続バーディーで３人が通算９アンダーで並び、17番パー５を迎えた。いずれも第２打でグリーン周りまで運び、第３打でバーディーチャンスを迎えたが、一番長かった尾崎将が２メートルを沈め、陳が１.５メートル、中嶋が１メートルを外した。最終18番をパーで切り抜けた尾崎将に対し、攻めた中嶋、陳がボギーとして決着。追い上げた米山を１打差で振り切り、尾崎将が通算10アンダーで大会最多５度目の優勝を飾るとともに、自身通算80勝（海外、ツアー外の試合も含む）の区切りとなった。２年前の４度目の優勝時は通算70勝と、この大会には縁がある。
　尾崎将は17番のバーディーについて、スポーツニッポン紙は「自信はなかった。入れと心の中で叫んでいたし、競り合っている精神状態で考えればよく入ってくれた」と振り返ったと伝える。「これだけもつれたのは久しぶり。きつかった」とも。1971年にこの大会で初優勝してから22年で80勝を積み上げたが、日刊スポーツ紙には「いくら勝ってもあら探しが好きなんだ。勝ちはうれしいが、今日の内容は未熟。そういう性格なんだ」と口にしている。
　敗れた中嶋は大きなため息をつき「このため息がすべてを表しているね。これだけたくさんのお客さんに生の迫力を感じてもらえたと思う。いいゲームだったね」といい、尾崎将も「今の時点で最高のメンバーでの試合。だから大勢の観客がやって来たし、視聴率も上がったと思う」と話している。役者がいて、素晴らしい展開になれば、おのずと見る側にも伝わることをあらためて感じさせた大会だった。

第61回日本プロゴルフ選手権