第58回日本プロゴルフ選手権(1990年)
2015.05.11
1990年8月6日付日刊スポーツ
加瀬が人生変える8年目のツアー初勝利
連日33度を超え、暑さが一種の「ハザード」にもなっていた。大阪・天野山CC(6860ヤード、パー72)で行われたこの大会は、4日間猛暑に見舞われた。「AON」不在の混戦模様。その初日に首位に立ったのが、渡辺司だった。日大一高時代には、夏の甲子園に控え投手として出場している「夏男」。64の好スコアをマークした。「暑さは僕だってこたえます。あまり考え込まずに、さっと構えてショットすることだけに専念したら、びっくりするようなスコアになっちゃった」と、振り返っている。ボギーなしの1イーグル、6バーディー。6番パー5(488ヤード)では3番アイアンで8メートルに2オンし、イーグルを奪った。ラフが伸び、狭いフェアウエーのセッティングだったが、距離が短いだけに、好スコアが続出した。2位は3打差で飯合肇、加藤公徳と、世界アマで優勝経験のあるエドアルド・エレラ(コロンビア)がつけた。60台13人、アンダーパー34人と、初日からバーディー合戦の様相。88年尾崎健夫、89年尾崎将司と尾崎兄弟で連覇してきたが、健夫は初日膝痛で棄権、将司は欠場。尾崎3兄弟3連覇を目指す尾崎直道は74をたたいて66位と出遅れた。2日目もビッグスコアが飛び出す。藤木三郎が7アンダー65をマークし、通算8アンダー136で首位に浮上した。100キロ近い巨漢。最終18番パー5(534ヤード)では6・5メートルに2オンし、イーグルを奪うなど、1イーグル、6バーディー、1ボギーの内容だった。「ミドルパットがどんどん決まって暑さなんて忘れました」と、スポーツニッポン紙はコメントを伝えている。エレラとともに1打差2位に上がってきたのが66をマークした加瀬秀樹だった。前年、台風による暴風雨の最終日に66をマークして尾崎将司を猛追したが、惜しくも1打差2位に終わった。プロ8年目、ツアー未勝利。「ゴルフ人生が変わるような試合にしたい」という意気込みを、日刊スポーツ紙は伝えている。ボギーなしの6バーディー。持ち味の飛距離が生き「日本プロと聞いただけで頑張れそうな気がする」と、前年の経験が自信になっていた。2打差4位には初日首位の渡辺と飯合が並んだ。尾崎直は76とスコアを崩して予選落ちし、尾崎3兄弟での大会3連覇はついえた。
リズムに乗ると、スコアが出る。そんなコースで3日目に65をマークして通算11アンダー205で2位に浮上したのが倉本昌弘だった。前日、杉原輝雄から「AONがいなくて盛り上がらないと言われてはあかん。倉本がもっと頑張らないとあかん」とハッパをかけられた。7バーディー、ボギーなしのプレーに「やらなきゃと思っています。最後まで諦めない」と、宣言した。首位に躍り出たのは67とスコアを伸ばし、通算12アンダーとした加瀬。倉本に1打差の首位に「プレッシャーを楽しみたい」とコメントしている。2日目首位の藤木は通算10アンダーで3位に後退。65をマークした水巻善典が通算9アンダーで首位に3打差4位につけた。連日64、65というスコアが出ているだけに、上位にいても気を抜けない大会になった。
最終日、上位陣は序盤でつまずく。倉本が2番でボギー、藤木が3番でボギーと後退。加瀬も5番で第1打を右にOBのピンチ。打ち直した後、第4打を30センチに付け、ボギーで切り抜けた。続く6番パー5では340ヤードのロングドライブを放ち、バーディーで取り返してから波に乗った。後半、倉本、藤木がスコアを崩し、下位からのチャージも出てこなかった。加瀬は14、15番連続バーディーで突き放し、通算14アンダー274で、終わってみれば2位倉本、藤木に5打差をつけての圧勝だった。プロ8年目、30歳でのツアー初勝利が公式戦の「プロ日本一」となった。
「これで人生は変わる」と日刊スポーツはその喜びを伝える。立正大を中退して千葉・長太郎CCに入り、中山徹に師事。83年にプロテスト合格した。183センチ、87キロの体格に恵まれていたが、温厚な性格が災いしてか、「詰めが甘い」とツアー勝利からは見放されていた。「ピリピリしては運が逃げる」と最終日も終始ニコニコしてプレーした。「生涯、日本プロは忘れられない試合になりました。これで人生が変わります」と喜びを表現している。20年後、シニア入りした2010年、日本プロシニアでシニア初勝利を挙げている。「プロ日本一」には縁があるようだ。
プロフィル
加瀬秀樹(かせ・ひでき)1959年12月1日、千葉県出身。高校時代はバスケットボールの選手。立正大を2年で中退して千葉・長太郎CCに入り、中山徹の指導を受けて83年にプロテスト合格。美津濃プロ新人で優勝している。ツアー競技では90年日本プロが初勝利で、4勝を挙げた。183センチ、87キロと恵まれた体格でツアー屈指の飛ばし屋。シニア入りして2010年に日本プロシニアを制覇、シニアツアーは通算2勝。
第58回日本プロゴルフ選手権
順位 | 選手名 | Total | Round |
---|---|---|---|
1 | 加瀬 秀樹 | 274 | = 71 66 67 70 |
2 T | 藤木 三郎 倉本 昌弘 |
279 | = 71 65 70 73 = 73 67 65 74 |
4 | 水巻 善典 | 280 | = 71 70 66 73 |
5 | 一岡 義典 | 282 | = 71 70 69 72 |
6 T | 金子 柱憲 牧野 裕 須藤 聡明 デービット・イシイ |
283 | = 75 68 71 69 = 71 69 72 71 = 77 70 65 71 = 70 69 70 74 |
10 T | 甲斐 俊光 小林 富士夫 大山 雄三 安田 春雄 マーシュ 上野 忠美 入野 太 柴田 猛 |
284 | = 70 77 69 68 = 71 75 70 68 = 73 73 68 70 = 74 68 71 71 = 73 69 70 72 = 73 69 70 72 = 69 73 70 72 = 71 69 69 75 |