第47回日本プロゴルフ選手権(1979年)
2015.05.07
1979年9月17日付日刊スポーツ
大会史上初の“父子制覇”
ゴルフ界において台湾と日本の結びつきは長く、深い。戦前の陳清水をはじめ多くのプレーヤーが日本を舞台に活躍し、刺激を与え合ってきた。謝敏男もその1人。1960年代から日本でプレーし、多くの勝ち星を挙げてきた。
その謝が初めて“日本”と名のつくタイトルを手にしたのは1979(昭和54)年の日本プロ。39歳の時だった。
浅見緑蔵設計の浅見CC(茨城県、6321m、パー72)に143選手が参加した初日はアウトで30をマークした寺本一郎が通算6アンダーの66で単独首位。謝は67で1打差2位と好位置につけた。
2日目、謝は68をマークし、通算9アンダー。杉原輝雄に1打差をつけて単独首位に立った。夏場に体調を崩した影響で前週まで3試合連続予選落ちという不振がウソのような快進撃だった。
3日目、謝はさらにアクセルを踏む。4番パー5(475m)の2打目を1mにつけてイーグルを奪うなど、パー5だけで5アンダーの荒稼ぎ。66で回って通算15アンダーは2位・杉原に5打差をつける独走態勢となった。 追う杉原は「明日ワシが65を出さないとチャンスはなさそうだ」(日刊スポーツより)と厳しい表情を見せ、謝は「これでやっと勝てそうね」(日刊スポーツより)と初めてのビッグタイトルを目前にして気持ちをたかぶらせていた。
だが、勝負はゲタを履くまでは分からない。最終日、一進一退で思うようにスコアを伸ばせない謝に対して杉原は確実にバーディーパットを沈めて差を詰めていく。15番で杉原がこの日6個目のバーディーを奪い、その差「1」にまで接近した。
最終18番パー5(512m)、謝は2打目をバンカーに打ち込んだ。ボールはアゴに近い。杉原は3打目を確実に6mに寄せた。ミスが敗戦に直結する厳しい状況で謝はどう考えたのか。日刊スポーツがその場面を振り返った謝のコメントを掲載している。
「私の球はアゴまで20cmの砂の上。打ちにくい。でも杉原さんも緊張しすぎて1パットは無理。大丈夫、大丈夫って、自分に言い聞かせたのよ」
勝ちたい気持ちは、杉原のほうが強かったかもしれない。
かつて、日本プロ、日本オープンに関東と関西のプロ、オープンを加えた6大会が「6大競技」と呼ばれていた。杉原のように関西の選手は日本プロ、日本オープン、関西プロ、関西オープンを制すれば、いわゆるグランドスラムというのが一般的な考えだった。杉原は若いうちに日本プロ以外の3大会を制していた。だから、日本プロになると毎年のように「四冠への挑戦」が話題になる。だが、勝てなかった。この年まで2位に甘んじること3回。すでに42歳になっていた杉原は最後のチャンスだと感じていたかもしれない。「杉原さんも緊張しすぎて…」という謝の言葉は、そんな杉原の立場をふまえ、冷静に相手を観察していたからこそ出たとも考えられる。
謝の3打目はグリーンをわずかにオーバーしたが、そこからパターで80cmに寄せる。杉原のバーディーパットは謝の読み通り決まらない。最後は謝が80cmのパーパットを沈めて決着をつけた。
「苦しい戦いだったよ。今までで一番」(日刊スポーツより)と話した謝。4回目の、そして結果的に最後の2位となった杉原は「優勝争いを面白くしたということで勘弁してください」(スポーツニッポンより)と悔しさをにじませた。
この日、1人の歴代優勝者が謝のプレーに熱視線を送っていた。台湾のレジェンドであり、謝にとっては夫人の父親でもある陳清水だ。
義理の父親と息子ではあるが、父子の間柄の選手がともに日本プロチャンピオンとなるのは初めてのこと。両脇から優勝トロフィーを抱きかかえて写真に納まっている2人の表情は、どこまでも晴れやかだった。
プロフィル
謝敏男(シャ・ビンナン)1940~台湾・淡水出身。1968年関東オープンで日本初優勝。以降75年関東プロ、79年日本プロなど計15勝を挙げる。82年には東海クラシック、ブリヂストンオープン、ゴルフダイジェストですべて初日から首位を守っての3週連続優勝を達成。また、72年のワールドカップでは団体、個人の2冠に輝いている。
第47回日本プロゴルフ選手権
順位 | 選手名 | Total | Round |
---|---|---|---|
1 | 謝 敏男 | 272 | = 67 68 66 71 |
2 | 杉原 輝雄 | 273 | = 69 67 70 67 |
3 | 草壁 政治 | 274 | = 71 68 69 66 |
4 | 中嶋 常幸 | 275 | = 70 68 69 68 |
5 T | 川田 時志春 中村 通 |
276 | = 70 69 68 69 = 69 72 67 68 |
7 T | 石井 裕士 川村 正巳 |
279 | = 69 73 68 69 = 73 68 67 71 |
9 T | 山本 善隆 小林 富士夫 |
281 | = 69 69 72 71 = 70 70 71 70 |