第51回日本女子プロゴルフ選手権(2018年)
2019.01.28
優勝トロフィーを掲げる申ジエ(写真提供:日本女子プロゴルフ協会)
元世界女王・申ジエが公式戦3冠を達成
女子の世界ランキングが制定されたのは2006(平成18)年2月のことである。初代女王はスウェーデンのアニカ・ソレンスタム。当時、圧倒的な存在感を誇っていたソレンスタムは60週にわたってその座を守った。ソレンスタムに取って代わったのがメキシコのロレーナ・オチョアだった。オチョアは2007年4月に1位に立つと158週もの“長期政権”を築き上げた。2010年5月、競技の第一線から退いたオチョアに代わって第3代女王に就いたのが韓国の申ジエである。申は前年、1987年の岡本綾子以来2人目となるアジア人選手の米ツアー賞金女王に輝いていた。弱冠21歳での快挙だった。ちなみに、申の次に世界ランキング1位になったのは宮里藍だ。2010年は申と宮里、そしてクリスティ・カー(米国)の3人が代わる代わる1位に立つ混戦だった。世界ランキング1位の実績を誇る申が米ツアーを離れ、日本ツアーを拠点としたのは2014年のことである。世界一にまで上り詰めた選手の日本ツアー参戦は異例のこと。申はその理由を「自分の位置や経歴にとらわれて、本来の自分を見失っているような気がしていた。温かい人間味を感じる日本でやってみたいと思った」(LPGA MEMBER GUIDE2017より)と話している。
以降、申は日本で毎年、複数回の優勝を重ねていく。2018年も5月に公式戦のワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップを制し、9月にはゴルフ5レディスで優勝と安定した実力を示していた。そして、ゴルフ5レディス翌週、まだタイトルを手にしていない日本女子プロに挑んだ。
会場は富山県の小杉CC(6605ヤード、パー72)である。大会初日、9月6日の未明に最大震度7を記録した北海道胆振東部地震が発生した。その北海道出身の小祝さくらが5アンダー、67をマークして首位発進した。この日、67で回ったのは計4人。その中には申の名前もあった。前週のゴルフ5レディス、小祝は申とプレーオフを戦って敗れ、プロ初優勝を逃していた。「できればもう一回やってみたい。メチャ楽しかったから」(スポーツニッポン紙より)と小祝。それほど、20歳の小祝にとって元世界女王との戦いは刺激的で貴重な経験だった。
2日目、申は8バーディー、2ボギーでこの日ベストスコアの66をマークして通算11アンダーにまでスコアを伸ばし、単独首位に立つ。小祝もひとつスコアを伸ばして通算6アンダーとして2位グループにつけたが、その差は5打。プレー中、グイグイとスコアを伸ばしていく申の状況をスコアボードでチェックし、自らに気合を入れていたという。
2位タイが4人おり、小祝が望む申との同組対決は実現しなかった。最終組を回る申は3日目も快調にスコアを伸ばしていった。だが、14番でティーショットを左に曲げてOB。ダブルボギーを叩いて流れが止まり、15番以降はすべてパーだった。正確無比なショットを誇る申のOBは非常に珍しい。「私の人生で、確か7回目のOBだと思う」(LPGAオフィシャルウェブサイトより)。30年の人生で、たったの7回。世界一になった人間の、恐るべきデータである。
68で回ったジョンジェウンが3打差の2位に浮上。大きな被害を受けた故郷に勇気を届けたい小祝は最終組のひとつ前でプレーしてパープレーの72。通算6アンダーの3位であるが、最終ホールのボギーが響いてまたもや申との同組対決を逃してしまった。5人の3位タイの中で最終日最終組をつかんだのは70で回った有村智恵だった。
強い雨に見舞われ、終盤に1時間余りの中断を余儀なくされたほどの難コンディションの中、元世界女王は別次元のゴルフを展開する。5バーディー、1ボギーでこの日ただ1人の60台となる68でプレー。大会新記録の272ストローク(16アンダー)で9打差の圧勝劇だった。「自分の感情をコントロールするには、悪条件のほうがいい。みんなも苦労しているし…」(LPGAオフィシャルウェブサイトより)と申。悪条件でも揺るがないのは超一流の証。元世界女王がその実力を改めて知らしめた。これで公式戦はLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ、ワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップに続く3冠目。誰も成し遂げていない4冠まで、日本女子オープンを残すのみとなった。
小祝はスコアを2つ落として6位に終わった。それでも、「この雨と風で前半は耐えきれませんでしたが、後半は耐えることができました。後半は集中力があり、難しいホールが続いていたので、パーで良いと切り替えました。そこが良かった」(LPGAオフィシャルウェブサイトより)とパープレーにまとめたインのプレーにはある程度の自己評価を下した。北海道出身者としての思いと奮闘は、被災者にも届いたはずだ。
優勝会見で申は「テレビをみるたびに心が痛む。私は少しでも力になりたい」(LPGAオフィシャルウェブサイトより)と被災地へ義援金を贈ることを公表。強さだけでなく、優しさも示した。
プロフィル
申ジエ(シン・ジエ)1988~韓国出身。高校2年時の2005年、韓国でプロ競技に優勝。同年11月にプロ転向し、翌06年に18歳で韓国ツアー賞金女王に輝いた。08年に日本ツアー初出場で優勝。同年はメジャーの全英女子オープンを制した。09年から米ツアー参戦。3勝を挙げて賞金女王となった。10年から11年にかけて通算25週にわたって世界ランキング1位に。14年からは日本ツアーを主戦場としている。
第51回日本女子プロゴルフ選手権成績
順位 | 選手名 | Total | Round |
---|---|---|---|
1 | 申 ジエ | 272 | = 67 66 71 68 |
2 T | アン ソンジュ ジョン ジェウン |
281 | = 71 69 71 70 = 71 68 68 74 |
4 T | 大出 瑞月 濱田 茉優 |
283 | = 69 71 72 71 = 67 74 71 71 |
6 | 小祝 さくら | 284 | = 67 71 72 74 |
7 T | 松田 鈴英 比嘉 真美子 菊地 絵理香 テレサ・ルー |
285 | = 69 72 72 72 = 71 71 71 72 = 69 70 72 74 = 68 70 72 75 |