第46回日本女子プロゴルフ選手権(2013年)
2017.06.19
優勝カップを掲げるイボミ 写真提供:日本女子プロゴルフ協会
大会史上初の10代Vを阻んだイボミの粘り
近年の女子ツアーは10代選手の躍進が目覚ましい。先鞭をつけたのは先日、今季(2017年)限りで競技生活から身を引くことを発表した宮里藍。まだ高校3年生だった2003(平成15)年、ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープンをツアー史上最年少の18歳で制したシーンは記憶に新しい。その後、2012年に韓国のキムヒョージュが宮里の記録を塗り替える16歳で優勝すると、その3年後には15歳の勝みなみがさらに最年少優勝記録を更新。2016年には17歳の畑岡奈紗が日本女子オープンを制し、10代選手として初の公式戦優勝者となった。10代選手の優勝はもはや珍しいものではなくなった感がある。
ただし、女子プロ日本一を決める日本女子プロではまだ10代選手の優勝はない。最年少記録は2014年鈴木愛の20歳。出場選手がプロに限られるのが理由のひとつといえるが、それでも10代のプロ選手は少なからずいる。歴史と伝統のある高い壁は若さの勢いだけでは越えられないのか。
この壁をあと一歩で乗り越え、新たな歴史を刻みそうになったのが比嘉真美子である。舞台は2013年の日本女子プロ、会場は北海道の恵庭CC(6682ヤード、パー72)だった。
比嘉は当時19歳。前年の7月にプロテストに合格したばかりだったが、フル参戦1年目のこの年、すでに2勝を挙げていた。そればかりか海外メジャー初挑戦となった6月の全英女子オープンで堂々の7位。期待の超大型新人だった。
初日、大会初出場の比嘉は3アンダーの69で回り、首位の酒井美紀から3打差の5位と好スタートを切る。2日目も68と好スコアをマークして通算7アンダー。イボミと並んで首位に立った。スポーツ新聞には『史上初10代メジャー制覇へ』の見出しが躍る。「上に行くにはメジャーと言われる試合で勝ち抜くことが必要」(LPGA MEMBERS GUIDE2014より)と比嘉も言葉に力を込めた。
3日目、最終組で回った比嘉とイボミが競い合うようにバーディーを重ねる。比嘉は5バーディー、1ボギー、イボミは4バーディーのボギーなし。ともに68で回って通算11アンダー。3位の不動裕理には4打差をつけ、一騎打ちの様相を呈していた。
最終日、コースは雷雨に見舞われた。午前11時に最終ラウンドの中止が決定。天候の回復を待って比嘉とイによるプレーオフのみを決行することとなった。
午後1時、16番、15番、16番の順でプレーする3ホール合計ストロークによるプレーオフが始まった。1ホール目の16番パー3はともに1オン2パットのパー。続く15番パー4でイは2打目をグリーン左に外すが寄せてパー。比嘉は4mのパットを決められずパーだった。3ホール目、再びの16番も共に1オン。先に打ったイが長い距離から2パットのパーで終えた。比嘉のバーディーパットは7m。ラインに乗ったかに見えたボールはわずかにカップの左をかすめていった。
勝負はサドンデスへと突入した。4ホール目の15番、イがピンチに陥った。2打目をグリーン左奥の林に打ち込んだのだ。グリーンまでは打ち上げでピンは近い。ボールは濡れた洋芝の上。イは「難しかった。どうしようと思いました」(LPGA MEMBERS GUIDE2014より)と振り返っている。対して比嘉は2m強のバーディーチャンス。イからすれば絶体絶命の状況だった。しかし、イは絶妙のアプローチで1mに寄せてパーセーブ。比嘉はまたしてもチャンスを決めきれずにサドンデスは続いた。
5ホール目も比嘉は入れれば優勝のバーディーパットを外した。6ホール目、3度目の15番、イを土俵際まで押し込みながら最後の決め手を欠いていた比嘉の手から流れがこぼれ落ちた。それまでの2回はティーショットにドライバーを握っていたが、ここで比嘉が手にしたのは3番ウッド。理由は4ホール目でフェアウエーを突き抜けてラフまで飛んでしまっていたことと、ティーマークが3ヤード前に出されていたからだった。そして、比嘉のティーショットは左の池に消えた。
ドライバーでフェアウエーをキープしたイは2オンしてパー。粘りに粘った末、ついに勝利をつかみとった。
結果的に取り返しのつかないミスとなったティーショットのクラブ選択に悔いはないかと報道陣に問われた比嘉は「プレーオフの6ホール、その以前の3日間も悔いのある1打は打っていない」(スポーツニッポン紙より)と気丈に語った。大会史上、さらには公式戦史上初の10代優勝の夢は目前でついえた。
快挙を阻み、前年のLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップに続く公式戦2勝目を挙げたイは「笑おうとしても顔がひきつってしまうほど緊張していました。きれいなトロフィーに自分の名前を刻みたいと毎日思っていました。本当にうれしいです」と感激の面持ち。プレーオフを含めた60ホールでボギーがわずか1個という安定感と粘り強さがもたらした優勝だった。
プロフィル
イボミ 1988~韓国・水原市出身。12歳でゴルフを始め、2007年にプロ転向。10年には韓国女子ツアーの賞金女王となった。日本女子ツアーには11年から参戦。15年には7勝を挙げ、ツアー史上最高額の2億3049万7057円を記録して賞金女王に。翌16年も賞金女王の座を守った。日本通算20勝(2016年終了時)。
第46回日本女子プロゴルフ選手権成績
順位 | 選手名 | Total | Round |
---|---|---|---|
1 | イ ボミ | 205 | = 68 69 68 |
2 | 比嘉 真美子 | 205 | = 69 68 68 |
3 | 不動 裕理 | 209 | = 71 70 68 |
4 | 原 江里菜 | 210 | = 69 70 71 |
5 | 北田 瑠衣 | 212 | = 71 71 70 |
6 T | 金 ナリ 横峯 さくら O. サタヤ 福田 真未 |
213 | = 72 72 69 = 70 74 69 = 73 71 69 = 70 72 71 |
10 T | 一ノ瀬 優希 酒井 美紀 |
214 | = 68 74 72 = 66 73 75 |