第45回日本女子プロゴルフ選手権(2012年)
2017.01.23
優勝カップを掲げる有村智恵(写真提供:日本女子プロゴルフ協会)
米女王の猛追を振り切り、有村が公式戦初優勝
2012(平成24)年の日本女子プロは滋賀県のタラオCC西コース(6670ヤード、パー72)で開催された。県南部、三重県との県境に接するように広がる同コースは18ホール中11ホールに水が絡む戦略的なレイアウトだ。132選手がスタートしていった初日は25歳の吉田弓美子が1人別次元のゴルフで飛び出した。10番から出た吉田は11番から3連続バーディーを奪って勢いに乗る。前半のインは5バーディーで31をマーク。アウトでも3バーディーを重ねて計8バーディーの荒稼ぎ。ボギーはひとつもなく、64という大会タイ記録及び公式戦タイ記録を叩き出した。2位グループとは4打差。「1日の目標が3アンダーで回れたら、というイメージだった。完璧に近かったです」(スポーツニッポン紙より)と吉田。このタラオCC西コースは09年のプロテストで1位合格を果たした思い出の地でもある。1カ月前に初優勝を飾った勢いで、プロテストに続く“1位”に向けて最高のスタートを切った。
2日目は午後になって天候が急変し、雷雨に。競技はサスペンデッドとなった。
プレーを終えていた午前組で魅せたのは吉田と同学年の有村智恵だった。スタートの1番からいきなり4連続バーディーを奪うなど65をマーク。2日間トータルは10アンダーの134で暫定首位に立った。134は予選ラウンド36ホールの大会最少ストローク新記録となった。それでも「これが最終日なら100点に近いですけど、2日目なので60~70点です」(LPGAメンバーガイド2013より)と自らを厳しく採点した。この時点ですでに通算12勝を挙げていた有村だったが、公式戦は未勝利。「優勝を重ねてきたけど、強い人の仲間入りができていないのは、4日間を勝てていないから」(スポーツニッポン紙より)と公式戦初制覇への強い意欲をにじませた。
初日首位の吉田は71とスコアをひとつ伸ばして通算9アンダー。有村とは1打差の暫定2位につけた。
3日目はまず第2ラウンドの残りを行い、有村の1位、吉田の2位が確定した。3位には通算6アンダーの大江香織がつけた。
有村は第3ラウンドでも好調を維持する。15番を終えて2バーディー、ボギーなし。2位・吉田との差を3打に広げていた。
グリーン左に池が広がる16番パー5、有村の3打目は池方向に飛んだ。ボールは辛うじて池の縁に止まったが、そこはラテラル・ウォーターハザード内。しかも、ボールは岩に接するような厳しい状況だった。リスクはあるが、打てなくはない。有村の気持ちはそのまま打つことに傾いていた。しかし、キャディーの助言で前のめりになりすぎていた気持ちを抑えた。1打罰で救済を受けることを選び、冷静に5打目を寄せてボギー。結果的に、この一歩引いた決断が福を呼んだ。続く17番パー3はティーショットを2mにつけてバーディー、18番では13mものバーディーパットを決めてこの日は69。通算13アンダー、203として54ホールの大会最少ストローク記録も更新した。
吉田は16番でバーディーを奪い、その時点では1打差に迫っていたが、17、18番はパー。2位は守ったが差は3打となった。3位は通算6アンダーで下村真由美、金ナリ、大江香織の3人がつけた。
最終日は有村と吉田の一騎打ちの様相で試合は推移していた。吉田はアウトで2つスコアを伸ばして通算12アンダー。1バーディー、1ボギーと停滞した有村は1打差に迫られていた。10番で有村がこの日2つ目のバーディーを奪うと、吉田はここで痛恨のボギー。再び差はスタート時と同じ3打となった。吉田は続く11番でもボギーを叩くが、12番でバーディーを奪って踏ん張る。すると有村が15番でボギー。2打差で終盤を迎えた。
有村は同じ最終組で回る吉田だけが相手だと考えていた。無理もない、途中までは3位以下とは大差がついていたからだ。しかし、ものすごい勢いで最終組の2人に迫る影があった。2組前でプレーしていた朴仁妃だ。スタート時、朴は有村とは8打差の6位にいた。しかし、アウトで2アンダーをマークし、さらには14番からは怒涛のバーディーラッシュだ。17番まで4連続でバーディーを奪って2位の吉田に並ぶと18番では5mを沈めて何と上がり5連続バーディー。ついに有村に1打差まで迫り、この年の米女子ツアー賞金女王に輝く底力をまざまざと見せつけた。ただ、有村は朴の猛追に気づかないままプレーを続けていた。
17番パー3、有村と吉田はともに右のバンカーに打ち込むピンチを切り抜けてパーセーブ。400ヤードと距離のある18番パー4を迎えた。ティーグラウンドに立つころに大粒の雨が落ちてきた。ギャラリーが慌ただしく傘を開き始める中、池越えのティーショットを有村も吉田もフェアウエーに運んだ。有村は2打目に5番アイアンを握り、ピン左3mに寄せる。続いて吉田が6番アイアンで手前8mに乗せた。
グリーン横にあるスコアボードを見て、有村は初めて朴が1打差にいることを知った。「凄いな、と。でも、近いトライだったので、これを沈めて終われたら」(スポーツニッポン紙より)と3mのパットに神経を集中させた。
一縷の望みを託した吉田のバーディーパットはカップのわずかに左を通り抜けた。有村もバーディーパットを沈めることはできなかったが、きっちりパーセーブ。いつの間にか上がっていた雨に代わって、有村の目から大粒の涙があふれ出した。
「勝ったんだなというホッとした気持ちと、4日間厳しい戦いを終えた解放感と、とにかく幸せです。この4日間は思い出せないくらい、その場その場で出し尽くしました」(LPGAメンバーガイド2013より)と激戦を振り返った有村。通算13勝目にしてついに公式戦タイトルを手に入れた。
プロフィル
有村智恵(ありむら・ちえ)1987~熊本県出身。10歳でゴルフを始め、九州学院中学2年時に日本ジュニア(12~14歳の部)で優勝。高校は宮城県の東北高校に進んだ。2006年のプロテストでトップ合格。08年のプロミスレディスで初勝利を挙げた。13年から15年までは米国を中心にプレー。通算13勝(16年終了時)
第45回日本女子プロゴルフ選手権成績
順位 | 選手名 | Total | Round |
---|---|---|---|
1 | 有村 智恵 | 275 | = 69 65 69 72 |
2 | 朴 仁妃 | 276 | = 72 68 71 65 |
3 | 吉田 弓美子 | 277 | = 64 71 71 71 |
4 T | 金田 久美子 笠 りつ子 |
280 | = 74 73 65 68 = 71 70 70 69 |
6 | 藤田 幸希 | 281 | = 69 71 72 69 |
7 T | イ ボミ 金 ナリ |
282 | = 69 72 71 70 = 68 71 71 72 |
9 T | リ エスド 表 純子 |
283 | = 74 67 74 68 = 69 72 74 68 |