第38回日本女子プロゴルフ選手権(2005年)
2017.07.18
優勝カップを掲げる不動裕理(写真提供:日本女子プロゴルフ協会)
宮里藍を阻む壁となった絶対的女王
先日、今季(2017年)限りでの現役引退を発表した宮里藍が国内ツアーにシーズン通して参戦したのは2004、05(平成16、17年)の2年間だけだった。プロ転向したのは2003年秋。そして2006年からは米女子ツアーを主戦場としたからだ。わずか2年だが、この間だけで11勝。まばゆいばかりの存在感で女子ツアーに新時代をもたらした。
ただし、これだけ活躍しながら賞金女王のタイトルには手が届かなかった。絶対的女王・不動裕理が高い壁になっていたからだ。そして不動は公式戦でも宮里の前に立ちはだかる。賞金女王をかけて激突した2004年最終戦のLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップでは4日間同組という激しい競り合いの末、不動が宮里らを1打差で抑えて優勝。5年連続賞金女王を決めている。
翌2005年、滋賀県の名神八日市CC(6509ヤード、パー72)で行われた日本女子プロでも不動と宮里は優勝争いを繰り広げた。3日目を終えて首位は6アンダーの大山志保。5アンダーで宮里と横峯さくらが続き、不動は4アンダーの4位につけていた。同い年のライバルである宮里と横峯が最終日最終組で同時にプレーするのは初めて。役者がそろった見ごたえのある展開となった。
公式戦の最終日を初めて首位で迎える大山は「どの選手が相手でも自分のゴルフをするだけです」(LPGA MEMBER GUIDE2006より)とコメント。宮里は横峯との最終組に「すごく楽しみですね」(日刊スポーツ紙より)と話し、優勝への目標スコアを「状況にもよりますけど、最低3アンダー」(LPGA MEMBER GUIDE2006より)と設定した。ひと組前でプレーすることとなった不動は前年の日本女子オープン、LPGAツアーチャンピオンシップリコーカップと公式戦連勝中。「せっかくずっと勝ってきているので狙っていきます」(LPGA MEMBER GUIDE2006より)と日ごろは慎重なコメントに終始する不動にしては珍しく逆転への強い意欲を示した。
最終日、アウトを終えて一歩前に出たのは宮里だった。3バーディー、1ボギーの34で回り通算7アンダー。大山と不動が6アンダー、横峯が5アンダーで続いていた。
10番で大山がバーディー。宮里に並んだ。しかし、それもつかの間、不動が11、12番で連続バーディーを奪って首位に立つ。不動はインに入ってスコアが停滞する最終組の3人を横目に15番パー3では8番アイアンで3mにつけてバーディーを重ね、差を広げる。この日、不動は4ホールあるパー3をすべてバーディーとした。
13番のボギーで一歩後退していた宮里が17番パー4で2打目を2mに寄せてバーディー。単独2位に浮上した。不動との差は2打。最終ホールに一縷の望みを託した。
18番パー4のティーグラウンドに立った宮里の目はフェアウエーから2打目を放つ不動の姿を捕えていた。不動が手にしていたのは5番アイアン。距離は約170ヤード、つま先上がりのライからフェードの弧を描いたボールは20cmにピタリとついた。絶対的女王がニューヒロインにその技をまざまざと見せつけ、わずかに残っていた希望を打ち砕いた。
表情を変えずに不動のスーパーショットを凝視していた宮里もまた18番をバーディーとした。不動とほぼ同じ位置から2mに寄せての意地のバーディーだった。
宮里は前日、自らが優勝するための目標スコアと話していた3アンダー、69はマークした。しかし、その2ストローク先に不動がいた。
「精いっぱいやったので悔いはありません。不動さんという壁はすごく高いです」(LPGA MEMBER GUIDE2006より)。宮里はさばさばした表情でそう話した。
この3週間後、宮里は日本女子オープンで公式戦初勝利を挙げる。その後、現在に至るまでの活躍は周知の通りだ。プロ入りしたころ、宮里は「不動さんより先に練習を終わらない」ことがひとつの目標だった。不動に勝つためには練習量で負けるわけにはいかないからだ。不動が高い壁であり続けたからこそ稀代のヒロインは鍛えられ、歴史に名を刻む名選手に育ったのだろう。
そして不動だ。最終日7バーディー、1ボギーの66。鮮やか過ぎる逆転劇だった。「ちょっとうまくいき過ぎましたね」(LPGA MEMBER GUIDE2006より)と謙そん気味に話したが、それを可能にしたのは第一人者としての強烈な自負心。宮里の存在が女王の底力を引き出したともいえる。
不動はこれで公式戦3連勝。公式戦が日本女子プロと日本女子オープンの2試合だった初期には樋口久子が公式戦9連勝というとてつもない記録をつくっているが、公式戦が3試合となった1980年以降では初の快挙となった。
最終日のテレビ視聴率はこの年最高の14.1%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)。役者がそろった名勝負にゴルフファンも熱い視線を注いでいたことが分かる。
プロフィル
不動裕理(ふどう・ゆうり)1976~熊本県出身。1996年、19歳でプロテストに合格し、ツアーデビューした97年に賞金ランキング34位でシード入りを果たす。99年の伊藤園レディスで初優勝し、00年には女子初の年間1億円突破を果たして賞金女王に。以降、05年まで6年連続でその座を守る。通算50勝。生涯獲得賞金は13億円超で歴代1位。
第38回日本女子プロゴルフ選手権成績
順位 | 選手名 | Total | Round |
---|---|---|---|
1 | 不動 裕理 | 278 | = 74 67 71 66 |
2 | 宮里 藍 | 280 | = 71 69 71 69 |
3 T | 横峯 さくら 大山 志保 |
282 | = 71 70 70 71 = 67 76 67 72 |
5 | 藤井 かすみ | 283 | = 70 74 71 68 |
6 | 辛 炫周 | 285 | = 73 70 72 70 |
7 | 廣瀬 友美 | 286 | = 72 72 70 72 |
8 T | 木村 敏美 米山 みどり |
288 | = 71 69 77 71 = 74 72 70 72 |
10 | 丁 允珠 | 289 | = 66 78 75 70 |