トロフィーを掲げる不動裕理（日本女子プロゴルフ協会提供）

無冠の女王が初めて手にした公式戦タイトル

　頂点に立つことは難しいが、その地位を維持することはさらに難しい。2000（平成12）年から6年間、賞金女王に君臨し続けた不動裕理の足跡は偉業中の偉業といっても過言ではないだろう。
　この6年間で最も輝きを放ったのが03年だ。この年、不動はツアー新記録となる年間10勝を挙げ、部門別公式記録（平均ストローク、パーセーブ率、パーオン率、平均パット数、イーグル数、バーディー数、リカバリー率、パーブレーク率）がすべて1位という他の追随を許さないプレーを見せた。獲得賞金は当時の新記録となる1億4932万5679円。賞金ランキング2位・李知姫（7812万9418円）の実に2倍近い数字だった。
　ただ、03年を迎えるまで不動には足りないものがあった。公式戦のタイトルである。
　圧倒的な強さが公式戦になるとなぜか影を潜める。安定してベスト10には入るのだが、優勝争いにはなかなか食い込めない。公式戦で最終日最終組を回ったのは98年の日本女子プロだけだった。
　03年最初の公式戦は9月の日本女子プロだった。不動はすでにこの時点で5勝を挙げ、通算では20勝。揺るぎのない優勝候補の筆頭だった。
　会場は埼玉県の太平洋クラブ＆アソシエイツ江南コース（6487ヤード、パー72）。残暑が厳しく、最高気温は連日30度を超えていた。
　初日、5アンダーの67で1打差の3位につけた不動は2日目に5バーディー、1ボギーの68で回り、通算9アンダーで2位に3打差をつけて首位に立った。これが、不動にとって公式戦で初めて経験する首位だった。
　ホールアウト後、不動は「普通のトーナメントならどうやったらいいか分かっているけど、（公式戦は）初めてなので未知の世界ですね」と話した。いつもとは違う重圧を感じている様子だった。
　3日目、不動は2バーディー、2ボギーの72と停滞する。じわりと迫ってきたのが前年、日本女子オープン、ＬＰＧＡツアーチャンピオンシップリコーカップと公式戦を連勝した韓国の高又順（コウ・ウスン）。70で回り、2打差の2位に浮上した。3位は通算6アンダーの古閑美保と佐藤靖子がつけた。
　蒸し暑さが増した最終日、不動は1番でバーディーを奪う絶好のスタートを切った。だが、それ以降は前日から調子を落としていたパッティングで苦戦する。6番ではわずか50ｃｍのバーディーパットを決められず、インに入ると10、13番でボギー。16位から猛チャージをかけてきた大場美智恵に並ばれた。
　14番をパーとして迎えた15番は475ヤードのパー5。2オン可能で何としてもバーディーを奪いたいホールである。
　ティーショットでフェアウエーを捕え、残りは225ヤード。7番ウッドで放った2打目はグリーンに着弾すると吸い寄せられるようにカップを目指して転がり、左50ｃｍに止まった。これを決めてイーグル。まさに起死回生の1打だった。
　続く16番では1ｍにつけてバーディー。終わってみれば4打差の勝利だった。
　それまで経験したことのなかった重圧に「疲れました。緊張感から解放されたことが一番です」と安堵の表情を浮かべた不動。さらには「もうこれでメジャー（公式戦）、メジャーって言われなくて済みますね」と口にした。公式戦の度に報道陣や周囲から「今度こそ」と言われ続けていた。その煩わしさからも解放された。
　不動はこの年、最終戦のＬＰＧＡツアーチャンピオンシップリコーカップで公式戦2勝目を挙げると、翌04年は連覇を狙った日本女子プロこそ4位に甘んじるが日本女子オープン、ＬＰＧＡツアーチャンピオンシップリコーカップを制し、さらに05年の日本女子プロにも勝って公式戦3連勝。“無冠”を返上したとたんに公式戦でも無類の強さを見せつけるようになった。

プロフィル

不動裕理（ふどう・ゆうり）1976～
熊本県出身。1996年、19歳でプロテストに合格し、ツアーデビューした97年に賞金ランキング34位でシード入りを果たす。99年の伊藤園レディスで初優勝し、00年には女子初の年間1億円突破を果たして賞金女王に。以降、05年まで6年連続でその座を守る。14年終了時で通算50勝。生涯獲得賞金は13億円強で歴代1位。

第36回日本女子プロゴルフ選手権成績