第31回日本女子プロゴルフ選手権(1998年)
2016.01.18
優勝トロフィーを持つ服部道子(左)と樋口久子会長(当時)(提供:日本女子プロゴルフ協会)
「アヤコの罠」に打ち勝った服部道子
世界的な設計家の手による難コースに、世界のアヤコが施した難セッティング。大会史上最も厳しいともいわれる舞台が用意された1998(平成10)年の日本女子プロは壮絶なサバイバル合戦となった。会場は茨城県の美浦GC(6550ヤード、パー72)。設計は世界各地に名コースをつくってきたロバート・トレント・ジョーンズ・ジュニアだ。そのコースを、公式戦タイトルをかけた戦いにふさわしいセッティングに仕上げたのは当時日本女子プロゴルフ協会副会長の職にあった岡本綾子だった。世界を知り尽くす岡本はフェアウエー幅を平均20ヤードに絞り、ラフは80ミリにまで伸ばした。従来よりも明らかに厳しいセッティングを「アヤコの罠」と表現したメディアさえあったほどだ。
初日、首位に立ったのは2アンダー、70で回った森口祐子と肥後かおり。アンダーパーでプレーしたのは3位の赤木由美子を含めて3人だけで、ホールアウトした129人のうち3分の1以上の45人が80を切れなかった。平均ストロークは78.512。この数字がいかに難しいセッティングだったかを物語っている。イーブンパーで4位につけた服部道子は「やっと18ホールが終わりました」(スポーツニッポンより)と安どのため息をついている。
2日目、上位3人はそろってスコアを大きく崩して後退。70で回った李五順が通算1アンダーで首位に立った。アンダーパーは李1人。服部は通算1オーバーで2位につけた。
予選カットラインは12オーバー。これは、カットラインが60位タイまでとなった87年以降、最も悪いスコアだった。
3日目になって初めて60台が出た。70の壁を破ったのは服部と福嶋晃子だ。服部は17、18番の連続バーディーで69をマーク。通算2アンダーで首位に立った。福嶋は1番でボギーが先行したがその後は4バーディーを奪って服部と同じ69。通算2オーバーで不動裕理と並んで2位に浮上した。
最終日最終組は服部、福嶋、不動の3人となった。15歳で日本女子アマに勝ち、16歳で全米女子アマをも制して天才少女の名をほしいままにしていた服部と1996、97年の賞金女王で大会連覇がかかる福嶋の2人は女子ツアーの中心的存在。まさに横綱同士の激突だった。そこに当時は21歳の未勝利選手ながら進境著しい不動が加わるという豪華な顔ぶれだった。
厳しい残暑が難セッティングとの対峙に疲れ切った選手たちの肉体的、精神的なスタミナを奪い、強くなった風がスコアメークを一層困難にした。1番をボギーとした服部は2番パー5の3打目を40センチにつけてバーディーを奪ってスコアを戻す。しかし、その後はズルズルと崩れていった。福嶋も不動も同じようにボギーを重ねていく。そんな中、6打差の4位につけていた川波由利がひとつ前の組で静かに服部に迫っていた。アウトを2アンダーの34で折り返し、通算2オーバー。服部が12番でボギーを叩いた時点でついに2人が並んだ。
直後、服部は首位に並ばれたことを知る。翌年の大会公式プログラムでのインタビューで服部はその時の気持ちを「リーディングボードを見た瞬間に“あ、私はいったい何をやっているんだろう。こんなんじゃいけない”とハッとして、そこから気持ちが吹っ切れました」と振り返っている。それまでは「曲げたくない」という気持ちが強すぎて振れていなかった。その結果、思いと裏腹に球は曲がっていた。「あそこからは伸び伸び感というか、思い切りクラブを振る自由な感覚が戻ってきました」(公式プログラムより)。難コースだからこその重圧で縮こまっていたスイングが本来のものに戻った。川波が池に入れてダブルボギーを叩いた15番パー3でバーディー。優勝への視野が一気に開けた。
16番をボギーとしたものの、17、18番をパーにまとめて後続を振り切った。優勝スコアは2オーバー。大会としては実に23年ぶりとなるオーバーパー決着だった。翌年以降の優勝スコアはすべてアンダーパー。それくらい、1998年大会は難しい舞台で行われたわけなのだ。
服部にとってシーズン3勝目でありツアー通算10勝目、そして1994年の日本女子オープンに続く公式戦2冠を達成。この年の6月に急逝した父親への手向けの優勝でもあった。 「難しいセッティングの公式戦で、自分の描いたゴルフ、コースマネジメントを実践して勝てたことは大きな自信になりました。その後シーズン終盤に2勝できたのも、この自信によるものが大きかったと思います」(公式プログラムより)
この年、服部は計5勝を挙げて初の賞金女王の座に就いた。
プロフィル
服部道子(はっとり・みちこ)1968~愛知県出身。愛知淑徳高校1年時の1984年に日本女子アマを15歳の最年少記録(当時)で優勝。母親の紘子さんとの親子2代の優勝としても話題になった。翌1985年には全米女子アマにも優勝し、87年には全米女子オープンで21位に入ってベストアマを獲得している。1991年にプロ入り。1998年には賞金女王に輝き、通算18勝を挙げた。
第31回日本女子プロゴルフ選手権成績
順位 | 選手名 | Total | Round |
---|---|---|---|
1 | 服部 道子 | 290 | = 72 73 69 76 |
2 | 川波 由利 | 293 | = 74 72 74 73 |
3 | 不動 裕理 | 294 | = 76 72 70 76 |
4 T | 高 又順 黄 玉珍 李 五順 小林 浩美 |
295 | = 73 77 73 72 = 76 77 70 72 = 73 70 77 75 = 75 75 71 74 |
8 | 福嶋 晃子 | 296 | = 76 73 69 78 |
9 | 森口 祐子 | 298 | = 70 77 75 76 |
10 T | 大場 美智恵 中野 晶 赤木 由美子 城戸 富貴 小野 香子 |
299 | = 77 78 73 71 = 77 74 75 73 = 71 77 76 75 = 76 70 77 76 = 74 78 71 76 |