第24回日本女子プロゴルフ選手権(1991年)
2014.10.20
優勝カップを掲げる大迫たつ子(日本女子プロゴルフ協会提供)
名手・大迫が最後に放ったまばゆい輝き
兵庫県の旭国際東條CC(6509ヤード、パー72)で開催された1991(平成3)年の日本女子プロは2年連続4度目の優勝を目指す岡本綾子が大本命だった。87年に米女子ツアー賞金女王となり、「世界のアヤコ」の名を確固たるものにしていた岡本はこの年、米国では未勝利に終わったが安定して上位に入り、賞金ランキングは7位。国内ではここまで5試合の出場で2勝を挙げ、四十路を迎えたとはいえ衰えない実力を見せつけていた。大迫たつ子は対照的な立場で女子プロ日本一決定戦に臨んでいた。悪夢に見舞われたのはこの2年前。89年に左股関節を亜脱臼し、満足にプレーができない状態に陥ったのだ。同年は6月中旬以降、ツアーを離脱。翌90年は4試合しか出場できなかった。91年は開幕戦から復帰していたが、5月に再び左股関節を痛めて戦列を離れていた。この日本女子プロは大迫にとって4カ月ぶりの復帰戦。しかし、状態は万全ではない。左足をかばいながら歩く姿はまだ痛々しかった。
初日、岡本は1バーディー、ボギーなしの堅実なプレーで1打差の2位発進。2日目、近づく台風の影響で雨が降り始めた。深いラフに長い距離というメジャー仕様のセッティングに各選手が苦しむ中、この日ベストスコアの68をたたき出したのは大迫だった。13番からの3連続を含む6バーディーを奪い「まぐれ、まぐれ」と謙遜したが伏線はあった。前日のホールアウト後、練習場で200発もの打ち込みを敢行していたのだ。復帰戦でまだ不安を抱えているとはいえ、初日の自分のプレーには納得がいかなかった。ここまで賞金女王3度、通算44勝を挙げているプライドがあるからこその執念の特訓だった。
大迫は通算2アンダーで首位に急浮上。3バーディー、3ボギーのパープレーにまとめた岡本が戴玉娟(タイ・ユーチェン)と並んで1打差の2位につけた。
3日目、大迫と岡本の最終組決戦は台風の接近による強風のため“水入り”となった。このため競技は72ホールから54ホールに短縮。大迫は「やりたかったけど、故障している私には3日間の方が楽かもしれない」と話した。
そして迎えた最終日は大一番をこの目で見ようと1万9576人もの大ギャラリーがコースを埋めた。88年の日本女子プロ以来優勝から遠ざかり、股関節の痛みと闘いながら苦しい時期を過ごしていた大迫に気負いはなかった。「こんな舞台でアヤちゃん(岡本)と戦えるだけでうれしい」。何度も優勝を争ってきた盟友・岡本との最終日最終組決戦を楽しもうという気持ちだった。
5番パー5、岡本がこの日初めてのバーディーを決める。「さすが世界の岡本綾子やね」と大迫が声をかける。続いて、大迫もこの日初バーディー。「さすが天下の大迫たつ子やね」と岡本が返す。女子プロゴルフ界をけん引してきた2人だからこそ、通じ合えるものがある。讃え合う言葉が自然と口をついていた。
アウトは互いに2バーディー、1ボギー。1打差のままインに入っていった。勝負が大きく動いたのは12番パー5だった。グリーン手前に谷があるこのホール、深いラフからの岡本の第3打は距離が出ず、谷底に消えた。OBだ。打ち直しの第5打は谷の手前に刻んでこのホールはトリプルボギー。一気に差が開いた。
大迫はインをすべてパーでまとめ、通算3アンダー。岡本を交わして2位に浮上した高須愛子に4打差をつけて4度目の日本女子プロタイトルを獲得した。
左股関節を痛めて以来、あらゆる治療に取り組んだ。「もうゴルフができない」とあきらめかけたことは一度や二度ではなかった。さまざまな思いが頭をよぎり、涙があふれた。「こんなにうれしい優勝はありません。勝って泣いたのは、初めてです」。3年ぶり45度目の美酒はそれまでとは違う味だった。
「ナイスカムバック。強いタッちゃん(大迫)が帰ってきた。心から拍手を送ります」。敗れた岡本はそう勝者に賛辞を送った。その表情は、晴れやかだった。
大迫はこの後、再び左股関節痛が悪化する。94年、ついに現役引退を発表。91年の日本女子プロは日本を代表する名手が最後にまばゆい輝きを放った一戦だった。
プロフィル
大迫たつ子(おおさこ・たつこ)1952~宮崎県出身。中学卒業後にキャディーとして宝塚GC(兵庫県)に入社。仕事をこなしながらプロを目指し1971年にプロテストに合格した。通算45勝を挙げ、77、80、87年には賞金女王に輝く。公式戦8勝は歴代2位。また、278試合連続予選通過の大記録を保持している。
第24回日本女子プロゴルフ選手権成績
順位 | 選手名 | Total | Round |
---|---|---|---|
1 | 大迫たつ子 | 213 | = 74 68 71 |
2 | 高須愛子 | 217 | = 75 69 73 |
3 | 岡本綾子 | 218 | = 71 72 75 |
4 T | 戴玉娟 谷福美 中野晶 |
219 | = 72 71 76 = 74 72 73 = 74 71 74 |
7 T | 太田育恵 塩谷育代 日蔭温子 |
220 | = 72 74 74 = 71 75 74 = 73 71 76 |
10 T | 李英美 涂阿玉 |
221 | = 75 70 76 = 74 75 72 |