1989年9月11日付スポーツニッポン

仲良しライバル対決を制して手にした15年シード

　年号が平成となった1989年の日本女子プロは“15年シード”をかけた2人の激突となった。
　当時、日本女子プロと日本女子オープンの2冠を手にした選手には翌年から15年間もの長期シードが与えられる規定があった。“日本2冠”を達成していたのは樋口久子、大迫たつ子、森口祐子、涂阿玉の4人だけ。この偉業に挑んだのが前年の日本女子オープンチャンピオンで30歳の谷福美とこの年の日本女子オープンを制した26歳の小林浩美だった。
　会場は栃木県の大金ＧＣ（6243ヤード、パー72）。初日は5アンダーの67をマークした台湾の呉明月と新人の乃村三枝子が首位に並び、谷は1打差の3位、小林は4打差の8位と好位置につけた。
　2日目、谷が首位に躍り出た。5バーディー、2ボギーの69で回り通算7アンダー。2位の森口祐子に2打差をつけた。妹2人もプロゴルファーという谷三姉妹の長女は2年前の87年に初優勝を飾ってから頭角を現してきた。この年もすでに2勝を挙げており、約2年で7勝。次代を担う存在と期待されていた。
　一方の小林はこの年の3月に初優勝を飾ったばかりだが、そこから一気にブレーク。瞬く間に日本女子オープンを含む5勝を挙げて涂阿玉と賞金女王を争うまでになっていた。同じグループに属して練習も共にする谷と小林は周囲からしばしば対比される存在。2日連続の71で6位につけている小林に対し谷は「浩美ちゃんに負けたくないという気持ちはあります」（スポーツニッポンより）と後輩にライバル心をちらつかせた。仲がいいからこその本音だった。
　その小林が3日目に追い上げてきた。ボギーが3つあったが7個のバーディーを量産してこの日68。通算6アンダーで2位に浮上したのだ。70にまとめ通算9アンダーで首位を堅持した谷は「やっぱり浩美ちゃんが来たなっていう感じ。面白くなってきましたね」（報知新聞より）と好敵手の躍進に表情を引き締めた。「今日は出来すぎです」（スポーツニッポンより）と話した小林は先輩の谷に対して「谷さんは私よりずっと上のレベル」（スポーツニッポンより）と敬意を表しながらも“同一年の2冠”という樋口しか成し遂げていない快挙を虎視眈々と見据えていた。
　この大会、2人は近くのゴルフ場のロッジに宿泊していた。部屋は隣同士。3日目の深夜、寝つけない谷は小林の部屋からもれてくるテレビの音に気付いた。「浩美ちゃんも寝れないのかな、と思って、ついつい私もテレビを見ていました」（日刊スポーツより）と谷。実は小林がテレビをつけっぱなしで寝てしまったそうなのだが、大一番を前にした者の心理が伝わってくるエピソードである。
　明けて最終日は谷が1番でバーディーを奪い「前夜からの緊張感がほぐれた」（報知新聞より）と気持ちが前向きになった。その一方で小林はバーディーが来ない。谷に決定打が出たのは9番パー4だった。残り160ヤードから5番アイアンで放った第2打がカップに消えたのだ。このイーグルで小林との差は6打に開いた。あとは独走。終わってみれば通算12アンダーで小林らの2位グループに8打差をつける圧勝となった。
　「悔しいです。パットが全然入らず、ほんとにイライラし続けでした」（報知新聞より）と小林。完敗に肩を落とした。
　史上5人目の“日本2冠”で15年シードを獲得、12アンダーは当時の72ホール最多アンダーという記録に彩られた優勝。谷は「本当にうれしいのひと言。公式戦を2つ勝って、やっと本物のプロになった、という充実感でいっぱいです」（報知新聞より）と喜んだ。

プロフィル

谷　福美（たに・ふくみ）1959～
北海道出身。父親はゴルフのレッスンプロだが、中学、高校時代はソフトボールに熱中。高校卒業後にプロゴルファーを目指して研修生となり21歳でプロテストに合格した。初優勝は1987年のダンロップレディス。同年3勝を挙げて賞金ランキング4位とブレークした。通算11勝。賞金ランキング最高位は1989年の3位。妹の里美と明美もプロゴルファーである。

第22回日本女子プロゴルフ選手権成績