第19回日本女子プロゴルフ選手権(1986年)
2015.07.21
1986年9月15日付スポーツニッポン
無欲で射止めた初の公式戦タイトル
第1回の女子プロテストが開催されてから19年後の1986(昭和61)年は女子プロ1期生たちがベテランの域に達する一方で多くの新しい芽が育ち、幅広い年齢の選手たちがしのぎを削る状況になっていた。実績ある選手に勢いのある若手がぶつかっていく様はどのスポーツにおいても興味を引くシチュエーション。この年の日本女子プロは第一人者と新星が激しく火花を散らした典型的な大会となった。会場は兵庫県のABCゴルフ倶楽部(5664m、パー72)。初日、首位に立ったのは大会9勝を誇る40歳の樋口久子と5カ月前にプロデビュー戦を迎えたばかりの21歳、中島恵利華(現在の登録名は中島エリカ)だった。
樋口は5バーディー、ボギーなし、中島は7バーディー、2ボギーで共に5アンダーの67。ただ、ホールアウト後のコメントは対照的だった。
「公式戦とはお金で買えないタイトル。それが逆にプレッシャーになっている」(日刊スポーツから)と樋口。何度も勝っているからこそ、常に先頭を走ってきたからこそ、その重みをずっしりと感じていたのだ。
一方で中島は「公式戦タイトル? 全然意識しないわ」(日刊スポーツから)とあっけらかん。中嶋常幸の妹という話題性に加え、自由奔放な言動で注目を集めていた中島らしい発言だった。
もうひとり、公式戦の重圧を感じていない若手がいた。2打差の3位につけた26歳の生駒佳与子だ。前週のキヤノンクイーンズで通算2勝目を飾ったばかりの生駒は「先週勝っているので気持ちが楽。何回も優勝している人は欲しいタイトルだろうけど、私はまだそこまではいかない」(日刊スポーツから)と話している。
2日目、樋口と中島は最終組で激突した。メディアもギャラリーも、この2人の直接対決に熱い視線を注いでいた。
伏線は5週間前の北陸クイーンズにあった。中島は樋口を含む4人のプレーオフを制してデビューからわずか4カ月で初優勝を飾っていた。注目のルーキーが女子プロゴルフ界の巨星を下したという構図だ。この優勝でもともと高かった注目度は一層高まり、メディアは樋口との“再戦”を煽っていた。
この日は70で回った樋口が通算7アンダーで単独首位に立ったのに対して中島は72と伸び悩んで3位に後退。2人と同組でプレーした生駒が69をマークして通算6アンダーの2位に浮上した。
3日目、樋口、中島、そして生駒は再び最終組でプレーした。樋口は4バーディー、3ボギーでスコアをひとつ伸ばして通算8アンダー。単独首位を守った。中島はボギーとバーディーが交互に来る内容から上がり4ホールで3バーディーと一気にたたみかけてこの日70。通算7アンダーで1打差の2位につけた。
「ここまできたのだから優勝狙いでいくしかない。4日間競技というのはきついけどやるしかないでしょ」(スポーツニッポンから)と10度目の優勝に意気込む樋口。対して中島は「明日も樋口さんと回れるなんてすごい」(スポーツニッポンから)と屈託なく話した。
生駒は72にとどまり2打差の3位に後退。最終日朝のスポーツ紙は樋口・中島対決一色だった。
1万人を超えるギャラリーが詰めかけた最終日は樋口が1番でいきなりボギーを叩く。中島は2、5番でバーディーを奪って逆転。アウトを終えた時点で中島9アンダー、樋口は7アンダー、生駒も7アンダーだった。
インに入ると樋口が10、11、14番とバーディーを重ねて10アンダーに。中島は逆にじりじりとスコアを落とし、首位は入れ替わった。生駒は10番バーディーで8アンダー。そして、生駒と同じ3位スタートの高村博美、20位にいた浜田光子が猛追を仕掛けてきた。
10度目の優勝が見えてきた樋口がまさかの落とし穴にはまったのが15番パー5だった。4番ウッドの2打目を左に曲げてOB。ダブルボギーを叩いてしまった。樋口はこれで張り詰めていた糸が切れたのか、17番でボギー、18番ではアプローチを2度ミスしてダブルボギーと失速。8位に終わり「期待に添えず、すみません」(日刊スポーツから)と肩を落とした。
中島は18番で決めればプレーオフのバーディーパットが入らず1打差の4位。「自分が情けないけど3日間樋口さんと一緒に回っていい勉強になった」(スポーツニッポンから)とサバサバした表情だった。
優勝の行方は通算8アンダーでホールアウトした生駒、高村、浜田の3人によるプレーオフへと持ち越された。浜田がこの日マークした64は当時のツアータイ記録だった。
プレーオフ1ホール目の18番は3人ともにパー。2ホール目の16番パー3でティーショットを1mにつけてバーディーを奪った生駒に凱歌があがった。
「上が伸びなかったから私にもチャンスが出てきた。本当にラッキーです。先週勝っているせいでしょうか、プレーオフでも気楽にいけました。運がいいんですね」(スポーツニッポンから)と生駒。樋口・中島対決の喧騒を気にすることなく、無欲で自分のプレーに集中した結果つかんだ勝利だろう。初の公式戦タイトルにも涙はなく、笑みが満面に広がった。
愛くるしい容姿で、“アイドルゴルファー”とも呼ばれた生駒。当初は「話題先行」と揶揄されてもいたが、しっかりと実力をつけ、大輪の花を咲かせた。
プロフィル
生駒佳与子(いこま・かよこ)1960~埼玉県出身。中学1年でゴルフを始め、高校2年時の1977年に日本ジュニア優勝。79年にプロテスト一発合格した。翌80年に賞金ランキング26位で早くも賞金シード入りし、日本プロスポーツ大賞新人賞を受賞した。85年の北海道女子オープンで初優勝。86年日本女子プロなど通算4勝を挙げている。
第19回日本女子プロゴルフ選手権成績
順位 | 選手名 | Total | Round |
---|---|---|---|
1 | 生駒 佳与子 | 280 | = 69 69 72 70 |
2 T | 高村 博美 浜田 光子 |
280 | = 73 72 65 70 = 74 73 69 64 |
4 T | 永田 富佐子 鄭 美琦 中島 エリカ |
281 | = 72 69 71 69 = 74 70 71 66 = 67 72 70 72 |
7 | 吉川 なよ子 | 282 | = 70 73 68 71 |
8 T | 樋口 久子 具 玉姫 |
283 | = 67 70 71 75 = 70 71 71 71 |
10 T | 大迫 たつ子 陳 麗英 |
284 | = 72 73 70 69 = 71 70 72 71 |