第17回日本女子プロゴルフ選手権(1984年)
2015.10.19
1984年9月24日付日刊スポーツ
“因縁の対決”を制し黄玥珡が海外勢初制覇
今年(2015年)の日本女子プロは台湾出身のテレサ・ルーが制した。台湾勢としては1985(昭和60)年の涂阿玉以来30年ぶりの大会制覇だった。今、日本でプレーしている海外勢はイボミ、アンソンジュらを擁する韓国勢が圧倒的な層の厚さを誇っている。その中で、台湾勢として孤軍奮闘しているのがテレサ・ルーといった構図だ。だが、かつては台湾勢が日本女子ツアーを席巻していた時代があった。1980年代のことだ。海外勢唯一の永久シード選手である涂を筆頭に、呉明月、黄玥珡、黄璧洵らが次々に勝利を収めていた。日本女子プロのタイトルを日本人選手以外で初めて手にしたのも台湾人選手。1984年のことだった。
大会初日は9月20日、会場は長野県の信州伊那国際GC(5799m、パー72)だった。
最も多くのギャラリーを集めたのは、この年国内初参戦となった岡本綾子だった。1984年は米女子ツアーで3勝を挙げ、当時自己最高の賞金ランキング3位に入った年。“世界のアヤコ”をひと目見ようというギャラリーが岡本の組に集中した。
その岡本はパープレーの72で回り4打差の11位スタート。首位に立ったのは岡本と同じ組で回った若手の川口寿子だった。
雲の上の人とのラウンドにスタートホールではティーアップする手が震えていた川口だったが、ラウンド中に岡本がジョークを言って和ませ、緊張がほぐれていった。その結果5バーディー、1ボギーの68で回り「すごく気楽にやれました」(日刊スポーツより)と感謝した。
2日目の主役は岡本同様、米女子ツアーでプレーしていた日蔭温子だった。14番から4連続バーディーを奪うなど67で回り、通算8アンダーの首位に立った。3打差の2位に浮上したのはこの日ベストスコアの66をマークした黄玥珡だった。この年に日本女子プロゴルフ協会に準会員として入会した黄は大会初出場。ボギーなしのラウンドに「ショットの出来が最高だった」(スポーツニッポンより)と声を弾ませた。
初日首位の川口は74と乱れて6打差の4位に後退。岡本は71で回り5位につけた。
3日目、岡本がじわりと上位に迫ってきた。アウトでスコアをひとつ落としたが、インで3バーディー、ボギーなしと反撃。通算3アンダーの3位で最終日を迎えることになった。
首位に立っていた日蔭は76と崩れて通算4アンダーの2位に後退。代わって首位に立ったのは3バーディー、2ボギーの71にまとめ、通算6アンダーとした黄だった。
最終日最終組は黄、日蔭、岡本の3人。「このペアリング、どこかでありましたね」(日刊スポーツより)と日蔭が口を開いた。
「どこか」とは2年前の1982年日本女子オープン。この3人は最終日最終組で激突していたのだ。
当時も首位に立っていたのは黄。日蔭と岡本は2打差の2位で追う形だった。そして、優勝したのは日蔭。黄は2位、岡本は3位に終わっている。
日蔭は「追われるより追うほうが気が楽でいいわ」(スポーツニッポンより)と2年前の再現を目論み、岡本は「誰だって勝ちたい。明日は思い切って、慎重に」(日刊スポーツより)と闘志をちらつかせた。再び追われる立場となった黄は「とにかく今度は負けないように、一生懸命やります」と“因縁の対決”に慎重な姿勢を示した。
秋晴れの最終日は7000人を超えるギャラリーが詰めかけた。アウトで40を叩いた日蔭が優勝争いから後退。黄は1オーバーの37、岡本は2オーバーの38で回り、前半を終えて黄のリードは4打に広がっていた。
しかし、インに入ると様相が一変する。岡本が11、13番でバーディーを奪い、黄が12番でボギー。その差は1打にまで縮まった。
“世界のアヤコ”の重圧が黄を襲う。「正直怖かった。14番からはドキドキのし通しだったです」(日刊スポーツより)と黄はプレー後に心中を吐露している。
16番で黄がバーディーを奪って2打差。だが、黄は17番でダブルボギーを叩いてしまう。このホール岡本はボギー。再び1打差となって最終ホールに入った。
355mのパー4、岡本は6mのバーディーパットを外し、パーでまとめた黄に凱歌が上がった。
台湾の同僚・涂阿玉らに祝福されて涙を流した黄は「夢みたい。生涯忘れません」と感激にひたった。
初めて海外勢に持っていかれた女子プロ日本一の座。それでも、自ら異国の地でプレーする岡本は「台湾も日本もアメリカも関係ない。勝負の世界は強いものが勝つんです」(日刊スポーツより)とすがすがしく黄を讃えた。
プロフィル
黄玥珡(こう・げっきん)1955~台湾出身。18歳でキャディーを始め、その後、陳金獅に師事してプロとなる。1970年代後半から日本での活動を始め、1982年のヤクルトミルミルレディスで初優勝を飾った。1984年に日本女子プロゴルフ協会に入会。通算12勝(入会前含む)を挙げ、うち公式戦は1984年日本女子プロ、1988年LPGAレディーボーデンカップの2勝。
第17回日本女子プロゴルフ選手権成績
順位 | 選手名 | Total | Round |
---|---|---|---|
1 | 黄 玥珡 | 285 | = 73 66 71 75 |
2 T | 大迫 たつ子 岡本 綾子 |
286 | = 69 71 75 71 = 72 71 70 73 |
4 | 具 玉姫 | 287 | = 71 73 70 73 |
5 | 日蔭 温子 | 289 | = 69 67 76 77 |
6 T | 樋口 久子 吉川 なよ子 |
290 | = 70 75 71 74 = 71 73 73 73 |
8 T | 高村 博美 蔡 麗香 |
291 | = 74 71 73 73 = 71 76 73 71 |
10 | 立岡 和代 | 293 | = 73 72 73 75 |