第15回日本女子プロゴルフ選手権(1982年)
2015.09.21
1982年9月27日付スポーツニッポン
女王同士の火花散る争い、凱歌は岡本に
1982(昭和57)年2月、岡本綾子がアリゾナ・コパークラシックで米女子ツアー初優勝を飾った。樋口久子以来2人目の快挙に日本のゴルフ界は沸いた。前年、8勝を挙げて初めての賞金女王となった岡本はこの年、開幕戦から米女子ツアーでプレーしていた。4月に帰国すると、“凱旋試合”となった東鳩レディスでいきなり優勝。世界を制した実力を存分に見せつけた。
岡本は7月に再び米国に渡り、約1カ月プレー。2度の2位をマークするなどして、秋にはまた日本に戻ってきた。
そして迎えた日本女子プロ、会場は富山県の高岡CC(5780メートル、パー72)だった。帰国後の3試合は一度もベスト10に入れず、調子を落としていた岡本。日本女子プロ初日もパープレーの72で首位・鈴木志保美から3打差の12位と目立たないスタートだった。
2日目、岡本は「生まれて初めて」(日刊スポーツより)という18ホールすべてパーオンのゴルフを展開。奪ったバーディーは2個だったが、2打差の4位に浮上した。
首位に立ったのは樋口だった。4バーディー、1ボギーの69で回り、通算4アンダー。森口祐子、高橋幸子が1打差の2位グループにつけた。
樋口には前人未到の通算60勝がかかっていた。1カ月半前の熊本中央レディスで59勝目を飾った樋口はその後スタンレーレディスとミヤギテレビ杯女子オープンで2位に甘んじ、足踏みを続けていた。日本女子プロという大舞台で60勝となればこれ以上の物語はない。メディアは色めき立ったが、樋口は「2日目にトップといっても、まだ36ホールもあるわけだから決して気は抜けません」(スポーツニッポンより)と自らに言い聞かせるように静かに語った。
3日目、最終組のひとつ前を回る岡本がチャージをかけた。アウトで3つスコアを伸ばし、インは3バーディー、1ボギー。通算7アンダーとして単独首位に躍り出た。
首位で出た樋口は伸び悩んでいたが16、17番でバーディーを奪って意地を見せる。通算6アンダーは岡本と1打差。「3打差と1打差じゃ全然違いますからね」(スポーツニッポンより)と逆転に照準を合わせた。
樋口と同じく2位につけたのは19歳の高橋幸子だった。勝てば公式戦最年少優勝となる高橋は最終日に2人の女王にはさまれてプレーすることになり、「私は下手だから関係ないと思ってやります」(日刊スポーツより)と無欲を強調した。
強い風が吹いた最終日、最終組はじっと我慢のゴルフとなった。6番まで3人ともすべてパーを重ねていく。
最初にスコアが動いたのは高橋だった。7番でボギーが先行した。樋口も9番でボギーが先行。岡本はアウトをすべてパーで回った。
インに入ると動きが激しくなる。高橋が10番でダブルボギーを叩いて後退し、岡本が10、11番で連続ボギー。樋口が岡本に並んだ。12番のパー5で樋口、岡本ともにこの日初めてのバーディーを奪う。樋口は12番をボギーとして一歩後退するが、14番で岡本がボギーを叩いてまたもや2人が並ぶ。“世界のチャコ”と“世界のアヤコ”。世界で結果を出した女王同士が、激しく火花を散らした。
勝負の分かれ目となったのは16番パー3だった。先に打った樋口は4番アイアンで手前のバンカーに入れて痛恨のボギー。そのショットを見た岡本は手にしていた6番アイアンを5番アイアンに替えてピン奥に乗せた。2パットのパー。岡本が一歩前に出た。
最終ホール、18番は短いパー4である。先に2オンした樋口に対し、サンドウェッジを手にした岡本の2打目は大きくダフってグリーンに届かなかった。土壇場でのまさかのミスだった。
ピンまで30メートルのアプローチ。ふだんならば8番アイアンを使っての転がしを選ぶ岡本が「思い切り突っ込んでやれと、勘に頼って」(報知新聞より)と7番アイアンを握った。結果は50センチにピタリ。樋口がバーディーパットを外して決着がついた。
60勝に王手をかけてから3度目の2位となった樋口は「私は決して悪いゴルフはしていないのに、終わるといつも誰かが上にいるのよ」(報知新聞より)と語った。その後も惜敗が続き、60勝は翌年4月まで待たなければならなかった。
3年ぶり2度目の日本女子プロタイトルを手にした岡本は「帰国して約5週間、優勝争いにも加われなかったのが私を臆病にしていた。人が攻めてくる怖さじゃなくて、自分のショットが怖くて不安だった。クラブを握るのもいやになるぐらい」(日刊スポーツより)と心中を吐露した。最終ホールの2打目は極限の精神状態の中でのミスだった。それを振り払っての戴冠。歴史に残る名勝負を制した岡本は「肩の荷がおりた感じ。心からうれしい」(スポーツニッポンより)と喜びをかみしめた。
プロフィル
岡本綾子(おかもと・あやこ)1951~広島県出身。実業団ソフトボール部のエースとして国体を制した後にプロゴルファーを目指し、1974年のプロテストで合格した。81年に8勝を挙げて賞金女王に輝く。その後、米女子ツアーに本格参戦し、87年には米国人以外では初めてとなる賞金女王に輝いた。国内44勝、米17勝、欧州1勝の計62勝。05年に世界ゴルフ殿堂、14年に日本プロゴルフ殿堂入りしている。
第15回日本女子プロゴルフ選手権成績
順位 | 選手名 | Total | Round |
---|---|---|---|
1 | 岡本 綾子 | 283 | = 72 70 67 74 |
2 | 樋口 久子 | 284 | = 71 69 70 74 |
3 | 高橋 幸子 | 285 | = 70 71 69 75 |
4 | 森口 祐子 | 287 | = 71 70 73 73 |
5 T | 永田 富佐子 涂 阿玉 |
288 | = 73 70 71 74 = 74 73 70 71 |
7 | 今堀 りつ | 289 | = 70 75 71 73 |
8 | 吉川 なよ子 | 290 | = 70 77 73 70 |
9 T | 柏戸 レイ子 井上 裕子 |
291 | = 75 71 72 73 = 71 74 73 73 |