第12回日本女子プロゴルフ選手権(1979年)
2014.08.18
7月16日付日刊スポーツ
“世界新”で制したライバル同士の激闘
1951年4月生まれの岡本綾子と52年1月生まれの大迫たつ子。同学年でともに永久シード入りしている2人は互いに認め合うライバル同士でもあった。中学卒業とともに故郷の宮崎を離れ、兵庫県の宝塚GCにキャディーとして就職した大迫はやがて女子プロゴルファーの存在を知り、仕事をこなしながらゴルフの練習に励んだ。プロテストに合格したのは71年。19歳の時だった。
一方でソフトボールの国体優勝投手として名をはせていた岡本は引退後にプロゴルファーを目指し、73年に研修生として大阪府の池田CCに入社。翌74年には早くもプロテストに合格している。
初優勝は2人とも75年。ここから、競うように勝ち星を伸ばしていった。
79年の日本女子プロは7月13日に大阪府のPLカントリークラブ(5680m、パー74)で開幕した。ここまで大迫は通算12勝を挙げ、岡本は通算7勝。樋口久子に続く次世代女王候補としての激しい先陣争いを繰り広げていた。ただ、2人ともまだ「日本」と名のつく大きな試合には勝っていなかった。次世代女王の座を確固たるものにするためにも、日本女子プロのタイトルは何としても手に入れたい。そんな強い思いが、歴史に残るハイレベルの激戦をつくりあげた。
PLCCはパー74。パー5がアウト、インともに3ホールずつあるセッティングである。初日、岡本、大迫はともに4アンダーの70をマークして首位に並んだ。「正直に言って、これは欲しいタイトルです」と大迫が言えば、岡本も「そりゃぜひ勝ちたい試合ですね」と気炎を上げた。
2日目、同組となった2人のプレーはさらにヒートアップする。大迫は1番から3連続バーディーを奪い、4番パーのあと5番でまたもやバーディー。さらには7番から3連続バーディーを決めて何とアウトで7アンダーの30を記録。もちろんこれは当時のツアー新記録である。岡本もアウトは5アンダーの32をたたき出していたのだが、それも霞んでしまうような大迫の快進撃だった。
インに入っても大迫の勢いは止まらない。10、12、14番とバーディーを重ね、この時点で10アンダーだ。しかし、16番で痛恨の3パット。17、18番はバーディーが奪えず、9アンダーの65でホールアウトした。
終盤で勢いが止まった大迫とは逆に、岡本は上がりの4ホールで3バーディー。こちらも65でホールアウトし、一時は4打差つけられていた大迫に追いついた。18ホールの9アンダーもツアー新記録。樋口も「女子でもこんなすごいスコアが出るの?」と驚き、脱帽するしかなかった。
2日間通算では13アンダーとなり、3位の小林法子とは実に9打の大差。優勝争いは2人に絞られていた。
最終日、先手を取ったのは大迫だった。4番で初バーディーを奪い、一歩抜け出が、岡本は5、7、9番でバーディーを決め、すぐに首位の座を奪い返した。さらに岡本は10番のパー5で2オンに成功してイーグル。一気に突き放した。
16番を終えたところで岡本は通算18アンダー、大迫は通算15アンダー。しかし、岡本は17番パー3の第1打を大きく右に外してダブルボギー。寄せワンのパーにまとめた大迫との差は1打となる。
それでも、岡本は慌てなかった。「ソフトボールをやっていた時、1点差がどんなに大きいものかを知っていましたから心配していませんでした」。迫られたとはいえ、やはり1打でもリードしている者が絶対的に有利であると前向きに考えていた岡本は最終ホールできっちりバーディーを奪い、通算17アンダー。大迫に2打差をつけて初の公式戦タイトルをつかみ取った。
54ホールの17アンダーはツアー新記録であるばかりでなく、当時の米ツアー記録をも上回るもの。新聞には“世界新”の見出しが躍っていた。
「気持ちいいですね、最高に」と岡本は感激に浸った。一方で15アンダーを出しても勝てなかった大迫は「これで勝てなかったのは運がなかったから。ただ、相手が素晴らしかっただけです」と勝者を讃えた。
飛距離を生かし、次々にバーディーを奪っていく2人の戦いは日本の女子プロゴルフ界に新しい風を送り込んだ。日刊スポーツに掲載されている日本女子プロゴルフ協会二瓶綾子理事長の言葉がそれを表している。
「女性でも、こんな爆発力があるのですね。これまでは曲げないショット、小わざ、パットのうまさで“まとめ上げるゴルフ”が女子プロの味だった。けれど、岡本さんや大迫さんのようにガンガン飛ばして突っ走る攻撃的なゴルフがここにきて初めて開花したのです。私達の時代とは明らかに異なるゴルフ。これは大きな歴史の曲がり角かもしれません」
岡本はその後アメリカに渡って賞金女王に上り詰める。大迫は翌80年の日本女子プロで公式戦初優勝を飾った。大迫の公式戦タイトルは通算8個。これは樋口の17個に次ぐ歴代2位の数である。2人は新時代をしっかりと築き上げた。
プロフィル
岡本綾子(おかもと・あやこ)1951~広島県出身。実業団ソフトボール部のエースとして国体を制した後にプロゴルファーを目指し、1974年のプロテストで合格した。81年に8勝を挙げて賞金女王に輝く。その後、米女子ツアーに本格参戦し、87年には米国人以外では初めてとなる賞金女王に輝いた。国内44勝、米17勝、欧州1勝の計62勝。05年に世界ゴルフ殿堂、14年に日本プロゴルフ殿堂入りしている。
第12回日本女子プロゴルフ選手権成績
順位 | 選手名 | Total | Round |
---|---|---|---|
1 | 岡本 綾子 | 205 | = 70 65 70 |
2 | 大迫 たつ子 | 207 | = 70 65 72 |
3 | 樋口 久子 | 218 | = 72 73 73 |
4 | 小林 法子 | 219 | = 71 73 75 |
5 T | 岡田 美智子 増田 節子 |
220 | = 71 76 73 = 77 72 71 |
7 | 吉川 なよ子 | 221 | = 74 73 74 |
8 T | 田村 筭代 松崎 たみ江 横山 美智子 |
222 | = 74 71 77 = 71 75 76 = 76 70 76 |