優勝カップを持つ佐藤精一（日本プロゴルフ協会50年史より）

ビッグタイトルを射止めた“早打ちマック”

　1970（昭和45）年、ひとりの男がゴルフ界の話題をさらっていた。甲子園優勝投手、元プロ野球選手という華々しい経歴を持つ尾崎将司だ。
　前年プロテストに合格し、研修期間を経てこの年の4月に正式にプロとして歩み出した尾崎は5月の関東月例競技で並み居る先輩プロを押しのけて優勝。破壊的な飛距離と相まって一躍脚光を浴びたのだ。
　尾崎は6月の関東プロで本格的なデビューを果たして19位、続く関東オープンでは3位に入って能力の高さを見せつけた。そして迎えた8月の日本プロ。大型新人が初めての日本と名のつく大舞台でどのようなプレーを見せるか、注目が集まっていた。
　会場は茨城県の水海道ＧＣ（6900ヤード、パー72）。132人の選手が“プロ日本一”の称号をかけて3日間72ホールの戦いに挑んだ。
　夏の太陽が降り注いだ初日、6アンダー、66をマークした鈴村久が首位に立ち、関水利晃が67で2位。68の3位グループには54歳、中村寅吉の名前もあった。そして尾崎はイーブンパーの72にとどまり36位。スポーツニッポン紙は「ショットもパットもいままでで最低…」という尾崎のコメントを掲載している。
　2日目も晴天で暑さが厳しかった。初日首位の鈴村は快調なプレーを見せていたが終盤に急ブレーキがかかりこの日はパープレーの72。通算6アンダーの3位に後退した。同じく3位には中村と佐藤精一がつけた。首位に立ったのは初日2位の関水だった。この日68で通算9アンダー。前年の11月に交通事故で重傷を負っていた関水は「ケガのおかげでその後は軽く打つことを覚えた」（日刊スポーツ紙より）と好調の要因を話した。2打差の2位にはコースレコードの65を叩き出した今田慶之助が初日の36位から急浮上。同じく36位にいた尾崎は前半のアウトは38と苦戦して予選通過も危うくなっていたがインは32と復調。通算2アンダーの23位で決勝ラウンドに進んだ。
　3日続けての晴天、微風となった最終日は前日首位の関水が第3ラウンドで77と崩れて後退。第3ラウンド終了時で首位には鈴村と橘田光弘が並び、1打差で佐藤と河野高明が追う。さらに中村や杉本英世ら6人が5位グループにつけていた。
　午後の最終ラウンド、一進一退のプレーが続く上位陣の中で佐藤が8番からの3連続バーディーで抜け出した。さらには15番でもバーディーを奪って通算11アンダーにまでスコアを伸ばした。16番からは3連続ボギーを叩いてしまったが、橘田とインスタートから猛追してきた金本章生を1打抑えて1967年の関東プロ以来、3年ぶりの優勝を飾った。尾崎は決勝ラウンドで72、74と停滞。佐藤から8打差の22位に終わっている。
　当時37歳の佐藤は身長1メートル61、体重54キロの小兵。パワーゴルフの申し子といえる尾崎とは対照的な体格だった。佐藤自身は「ドライバーでは尾崎に50ヤードも差をつけられるから、かないませんよ」（日刊スポーツ紙より）と謙遜するが、パワーはなくとも培ってきた技で栄冠をもぎとったことは間違いない。
　アドレスするやいなや歯切れのいいスイングでボールを打ち抜く様から“早打ちマック”と呼ばれた。「早打ちマックはまだやれるんですよ」（日刊スポーツ紙より）と佐藤は自らに言い聞かせるようなコメントを口にした。
　佐藤はすでに日本オープンのタイトルも手にしていた。長い歴史を誇る日本プロ、日本オープンの両大会をともに制していたのはこの時点で宮本留吉、浅見緑蔵、戸田藤一郎、陳清水、林由郎、小野光一、中村寅吉、橘田規というレジェンドばかり。史上9人目の偉業を達成した佐藤も歴史の一員となった。

プロフィル

佐藤精一（さとう・せいいち）1932～
千葉県出身。東京工業高校を中退して我孫子ＧＣに入り、7年の下積み生活後、1955年にプロテストに合格した。1966年日本オープンで初優勝を飾り、レギュラーツアーでは関東プロ（1967年）、日本プロ（1970年）と合わせて3勝を挙げている。シニアでは日本プロシニア（1982年）などで優勝。テレビのゴルフ番組などでも活躍してきた。

第38回日本プロゴルフ選手権