第29回日本女子プロゴルフ選手権(1996年)
2014.11.17
トロフィーを掲げる塩谷育代(日本女子プロゴルフ協会提供)
わずか1年3カ月での3冠達成
現在、日本女子プロゴルフ協会が公式戦(メジャー)としているのは日本女子プロ、日本女子オープン、LPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ、ワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップの4試合である。ワールドレディスがメジャーに昇格したのは2008(平成20)年。それまではメジャー3大会制だった。つまり、かつては3大会すべてに勝てば日本女子ツアー版のグランドスラムだったわけだ。ちなみに、現時点で現行の4メジャーすべてに優勝している選手はいない。三冠(グランドスラム)第一号は大迫たつ子。84年の明治乳業カップ(現在のツアーチャンピオンシップ)で達成した。翌85年には森口祐子と涂阿玉が相次いで三冠に輝く。以降、長くグランドスラマーは生まれなかったが96年の日本女子プロでついに4人目に名乗りを上げる選手が出現した。 新潟県の長岡CC(6427ヤード、パー72)で開催された第29回日本女子プロは3日目を終えて23歳の福嶋晃子が6アンダーで2位に3打差をつけて単独首位に立っていた。福嶋は大会前に立てていた「1日2アンダー」の目標通りのスコアで3日目を終了。「3打差はないと思ってやります。自分のゴルフをしてまた2つ縮めるだけ」と初の公式戦タイトルを見据えていた。
3アンダーの2位には服部道子と新井敬子、1アンダーの4位グループには塩谷育代、原田香里、肥後かおりが名を連ねていた。
晴天の最終日、コースには1万人を超えるギャラリーが詰めかけた。最終組の福嶋、服部、新井は前半からスコアを落とす苦しい展開。一方、一組前では肥後が1番から3連続バーディーとチャージをかけ、それにつられるように塩谷もバーディーを重ねていく。勝負は混戦模様となった。
後半、肥後が10、11番のバーディーで抜け出すが、14番でボギーを叩き、このホールでバーディーを奪った塩谷、さらには最終組の服部が4アンダーで並ぶ。服部は15番のボギーで一歩後退。そして、塩谷が17番パー3で2.5メートルのバーディーパットを沈めてついに単独首位に立った。最終ホールで塩谷は2メートルのパーパットを残すピンチだったがこれを沈めて通算5アンダーを死守。肥後に1打差をつけて大会初優勝を飾った。
5打差からの逆転は大会記録。「久々に自分の世界をつくって回れました。感無量です」と勝利の余韻に浸った塩谷。34歳のベテランが存在感を見せつけた。
前年、塩谷は6月の日本女子オープンでメジャー初優勝を飾り、最終戦の明治乳業カップも制覇してメジャー2冠。同時に3年ぶり2度目の賞金女王にも輝いていた。
ただ、96年は9月の日本女子プロまで未勝利。思うに任せないプレーが続いていた。
日本女子プロの予選ラウンド、塩谷は予想もしていなかった厳しい言葉をぶつけられた。「全然ボールに魂が入っていない。あれじゃあ、アカン。去年の賞金女王なんだから、もっとプライドを持ってやりなさい」と。
声の主は現役を引退していた大迫たつ子だった。会場で塩谷のプレーを見かけ、感じるところがあったのだ。
三冠第1号の大先輩の叱咤激励が塩谷の目を覚まさせた。「それから一球入魂でいこうと気持ちを切り替えることができました」と後に語っている。前年6月の日本女子オープン優勝からわずか1年3カ月での三冠は当時史上最速の快挙。グランドスラマーの一言が、新たなグランドスラマーを誕生させた。
プロフィル
塩谷育代(しおたに・いくよ)1962~愛知県出身。中学時代は陸上部に所属。全国放送陸上選手権の走り幅跳びで1位に輝いている。1982年、20歳でプロテストに合格。89年に初勝利を挙げた。通算20勝。92、95年には賞金女王に輝いている。
第29回日本女子プロゴルフ選手権成績
順位 | 選手名 | Total | Round |
---|---|---|---|
1 | 塩谷育代 | 283 | = 74 70 71 68 |
2 | 肥後かおり | 284 | = 74 67 74 69 |
3 | 服部道子 | 285 | = 73 67 73 72 |
4 T | 新井敬子 福嶋晃子 |
287 | = 74 70 69 74 = 70 71 69 77 |
6 | 原田香里 | 288 | = 73 71 71 73 |
7 T | 橋本愛子 前田真希 |
290 | = 73 75 70 72 = 69 75 74 72 |
9 T | 木村敏美 芳賀ゆきよ 坂東貴代 |
291 | = 71 72 73 75 = 72 73 74 72 = 73 73 75 70 |