優勝トロフィーを掲げる日吉久美子（写真提供：日本女子プロゴルフ協会）

若手エリート軍団を破って日吉が公式戦初優勝

　1990年代に入り、女子ツアーには新しい力が台頭し始めていた。1993（平成5）年には24歳の平瀬真由美が賞金女王に輝き、同年の日本女子プロは26歳の原田香里が優勝。翌1994年も25歳の服部道子が6月の日本女子オープンを制するなど、若手が次々にタイトルを手中にしていった。
　1994年9月の日本女子プロ（長野県・穂高ＣＣ＝6472ヤード、パー72）も20代の若手が存在感を示していた。初日は27歳の橋本愛子が3アンダー、69で首位タイ発進。2日目には70で回った25歳の肥後かおりが通算2アンダーで単独首位に立った。
　3日目に躍動したのは平瀬だった。7バーディー、1ボギーの66は3日間を通じてのベストスコア。8番からは4連続バーディーを奪ってみせた。通算4アンダーとして首位浮上。1989年のレディーボーデンカップ以来となる公式戦2勝目へ、エンジンを全開にした。「公式戦はすべて狙って取るつもりでやっています。そうしなければ勝った意味がない。当然、今回も優勝を狙ってます」（スポーツニッポン紙より）と平瀬は言葉に力を込めた。
　平瀬と同じく4アンダーで首位に並んだのは69で回った韓国出身の元載淑（ウォン・ジェスク）。日本の中京女子大学在学中に日本女子アマや日本女子学生のタイトルを手にしている元もまた25歳と勢いのある若手である。2打差の3位グループは橋本、日吉久美子、城戸富貴の3人。日本女子オープンに続き、日本タイトル2冠を狙う服部が68をマークして3打差の6位にまで浮上してきた。
　大会史上最多（当時）となる1万5340人のギャラリーが詰めかけた最終日、上位陣は序盤から苦しんだ。首位タイで出た平瀬は3番パー3で第1打をオーバーさせてダブルボギー。6番ではボギーを叩いた。同じく首位の元は4番終了時でスコアをひとつ伸ばして抜け出しかけたがその後はスコアを崩していく。3位グループの日吉、城戸、6位の服部も前半はオーバーパー。橋本はアウトの9ホールをすべてパーで折り返した。
　混戦の中、驚異的な回復力をみせた選手がいた。日吉だ。10番でこの日4個目のボギーを叩いた時点で首位とは4打差に開いた。それでも「あせってもしようがない。マイペースでいくだけ。結果は神様だけが知っている」（日刊スポーツ紙より）と気持ちは穏やかだった。この大会で日吉のキャディーを務めていたのはプロ仲間の上田珠代。12番でその上田から「パッティングでオープンスタンスになりすぎて、ストロークが左に逃げている」（日刊スポーツ紙より）とアドバイスがあった。アドバイスに従って修正した結果、パッティングが劇的に改善される。14番で7ｍのバーディーパットを沈めると、16番で3ｍ、17番で4ｍと次々にバーディー奪取。後半もスコアメークに苦しんだ上位陣を一気に抜き去った。ほかの選手にはもう抗う力は残っていない。通算4勝目、公式戦は初勝利だ。
　2打差の2位は平瀬、そして3位は橋本、4位は服部。3人ともジュニア時代からきらびやかな実績を積んできた、いわばエリートたちだ。対して日吉は中学卒業後に地元・静岡県のゴルフ場で修業の道に入った叩き上げ。プロテスト合格から初優勝までは11年の歳月を費やしている。「雑草」と表現するメディアもあったほどだ。
　そんな日吉がツアーを席巻するほど勢いのある若手たちを打ち破ってつかんだ女子プロ日本一の座。喜びはもちろんあっただろうが新聞各紙は「優勝の実感はありません。ラウンド自体バタバタで反省点は多いです」（スポーツニッポン紙より）、「まだ実感がわいていない。基本的には変わりません」（日刊スポーツ紙より）と日吉の人柄を表すような静かなコメントを掲載している。

プロフィル

日吉久美子（ひよし・くみこ）1964～
静岡県出身。中学卒業後、当時朝霧ジャンボリーＧＣに所属していた二瓶綾子のもとで修業。3年後の1982年に18歳でプロテスト合格を果たした。90年に賞金ランキング38位で初シード入り。92年の五洋建設・ＫＴＶレディースでツアー初優勝を飾った。94年と01年には日本女子プロ優勝。通算6勝を挙げている。

第27回日本女子プロゴルフ選手権成績