1998年5月17日付日刊スポーツ

ジョーブが尾崎将をプレーオフで下し、初の日本タイトル

　５月14～17日、奈良・グランデージＧＣ（7082ヤード、パー72）で行われた大会は、80年代後半からの絶対王者、ジャンボ尾崎将司に陰りが見えてきた大会になった。
　第1日、小達敏昭が首位に立った。細身の体をしならせて打つ飛距離が持ち味で、4つのパー５をすべてバーディーに仕留めるなど、8バーディー、１ボギーの7アンダー65をいきなりマークした。最終18番のパー5では２打目でグリーンオーバーしてバンカーに入れ、3打目も出なかったが、4打目を直接カップに入れた。「ドライバー、アイアン、パター、全部よかった」と日刊スポーツ紙には会心の1日だったとコメントしている。女優の故夏目雅子さんの弟として注目を浴びてきた。大会後に墓参りを予定しており「いい報告をしたい」と話している。１打差2位に山本行弘、３打差３位にブライアン・ワッツ、葉彰廷の外国勢がつけた。
　第２日、この年ここまで勝利がない尾崎将が浮上する。３バーディー、１ボギー、２ダブルボギーの72ながら通算4アンダーをキープ。６アンダーで首位に立った葉も伸び悩んだことで、2打差４位につけた。しかし、ホールアウト後に待っていたのは、用具契約先の社長がとばく開帳図利容疑で逮捕されたというショッキングなニュースだった。宿舎でその報を確認した尾崎将は「容疑が事実なら今後のことは弁護士と相談してしかるべき処置をとりたい。契約に関しても、これから先のことは今は途方に暮れているだけで、何も考えられない」というコメントを発表した。スポーツニッポン紙によると「せっかくクラブもイメージ通りにでき、これからというときに」とショックを隠せない様子だったという。小達は１打差２位に後退。前年覇者の丸山茂樹は予選落ちを喫した。
　第３日、尾崎将と同組で回った深堀圭一郎が首位に立つ。「こっちまで暗くなっちゃいけないと思った。よく耐えた。風が気になったけど消極的になっちゃいけないと思った」と、日刊スポーツ紙は深堀の心境を伝える。３バーディー、１ボギーの70で回り、通算6アンダーとして、後続に２打差をつけた。その2位グループには、尾崎将もいた。こちらは心の悩みを抱えてのラウンドになったが、強風の中を３バーディー、３ボギーの72で回った。「悩みを解消していい方向に変えていくのがプロ。まだおれも若いってことだ」とコメント。最終日に向け「安定した強さを持っている人間が少ない。日本は層の厚さに欠ける」と、２位集団にいる小達のほかの外国人３人、デビッド・スメイル、ブラント・ジョーブ、葉を警戒した。
　最終日は1万4796人のギャラリーが詰めかけた。その中で尾崎将は6バーディー、２ボギーの68をマークし、通算8アンダーとした。同じく、2位からスタートのジョーブも5バーディー、１ボギーの68で尾崎将に並んで首位でホールアウト、プレーオフに突入した。1ホール目の18番パー５で、尾崎将が第１打を右に曲げて土手に打ち込んで流れをつかめなかった。第3打でピン10メートルにつけたがそこから3パット。2オンして３パットのパーで上がったジョーブに敗れた。
　ジョーブは初の日本タイトル。17番パー3のバーディーで尾崎将に追いついての勝利だった。「世界のトップ10に入っているジャンボさんに勝ててうれしい」と話した。この年の日本ツアーはここまで9戦して外国勢が7勝と強さを見せた。
　敗れた尾崎将は、正規の17、18番でバーディーを逃して「そのショックが大きすぎてプレーオフで体が重かった」と話している。第２日に発覚した契約先社長逮捕という苦境の中でも、日本ＮＯ・1選手の意地を見せたが、最後に力尽きた。「精神的なダメージが大きいからダメだよ」と珍しく弱気のコメントも。この大会後に３勝を挙げて12度目の賞金王になったが、以後は台頭してきた若手にその座を譲ることになる。

プロフィル

ブラント・ジョーブ
1965年８月１日生まれ、米オクラホマ州出身。ゴルフの名門ＵＣＬＡ（カリフォルニア大ロサンゼルス校）ではＮＣＡＡ（全米大学体育協会）選抜にも選ばれている。プロ入り後は米ツアーのシード権をとれず、1995年にアジアンツアーで総合優勝し、日本ツアーの出場権を獲得した。95年三菱ギャラントーナメントで初優勝、98年は日本プロなど3勝し、賞金ランク4位。99年から米ツアーに戻っている。日本ツアー通算６勝。

第66回日本プロゴルフ選手権