第35回日本女子プロゴルフ選手権(2002年)
2015.01.19
トロフィーを掲げる具玉姫(日本女子プロゴルフ協会提供)
46歳、大会最年長優勝記録を打ち立てた韓国のレジェンド
昨年の女子ツアー賞金女王に輝いたのは韓国のアンソンジュだった。彼女自身3年ぶり3度目の戴冠であり、韓国勢は2012(平成24)年の全美貞(ジョン・ミジョン)を含めここ5年で4度も女王の座に就いている。アンや全のほかにもイボミや申(シン)ジエら韓国出身の強豪がひしめいているのが今の女子ツアー。海外に目を転じても現在(1月19日時点)の世界ランキング1位は韓国の朴仁妃(パク・インビ)である。韓国勢が世界の女子ゴルフシーンを席巻するようになってもうかなりの年月が経つ。その直接的なきっかけになったのは98年にわずか20歳で全米女子プロと全米女子オープンを制した朴(パク)セリであることはよく知られている。朴セリにあこがれてプロを目指した、あるいはクラブを握った子供たちが次々に台頭し、世界中で勝ち星を挙げてきたのだ。
ただし、すべての始まりが朴セリだったわけではない。大河のような大きな流れになった韓国女子ゴルフの源流は、朴セリからさらに遡った場所にある。朴セリの快挙から10年前、88年に米女子ツアーで韓国人選手として初めて優勝を手にした具玉姫(ク・オッキ)こそが最初のひとしずくだったのである。
具は韓国女子プロの1期生である。プロテストが行われたのは78年のことだった。80年代に入ると日本でもプレーするようになり、85年の紀文レディースで韓国選手として日本初優勝を飾る。翌86年から米女子ツアーに参戦。3年目の88年にターコイズクラシックで岡本綾子らを1打差で抑えて優勝したのだ。韓国ゴルフ界にとって、歴史的な1勝だった。
米女子ツアー参戦中もシーズン後半は日本でプレーし、92年の日本女子プロなどで優勝。93年からは再び日本を主戦場にした。
96年には40歳を迎えたが、衰えを感じさせないプレーを続けていた。99年には村口史子と最終戦まで賞金女王を争って賞金ランキング2位、00年には3勝を挙げている。
02年9月、46歳になっていた具はフジサンケイレディスで2年ぶりの優勝。流れに乗って翌週の日本女子プロを迎えていた。
会場は兵庫県の太平洋クラブ六甲コース(6480ヤード、パー72)。具は初日4アンダーの68をマークして単独首位に立った。2日目、3日目は71にまとめ、首位・藤野オリエに1打差の2位で最終日に向かった。
風が強くなった最終日、コースの難易度がグッと高まった。具は3番でボギーが先行し、ズルズルとスコアを落としていく。アウトは1バーディー、4ボギーの39。通算3アンダーで首位を走る藤野との差は4打に広がり、順位も4位に後退していた。
しかし、百戦錬磨のベテランはここから粘りを見せる。10番でバーディーを奪って息を吹き返し、ターニングポイントとなった12番パー4を迎えた。
林からグリーンを狙った藤野の2打目が池に消える。さらに4打目が再び池に。藤野はこのホールで「8」を叩いてしまった。対して具は16mもの長いパットが入ってバーディー。一瞬にして首位が交代した。
15番をボギーとした具が最終ホールを迎えた時、ひとつ前の組でプレーしていた木村敏美と4アンダーで並ぶ形だった。18番は400ヤードのパー4。グリーン手前には池があり、逆風という難しい状況の中、7番ウッドで放った具の2打目は左奥のカラー、ピンまで6mの位置に止まる。ここからパターで打った3打目は最後のひと転がりでカップに消えた。
この日、具はスコアボードを見ないでプレーしていた。「プレッシャーがあったんでしょうね。いつもの大会ではスコアボードを見ながらプレーするのに、その日は見てはいけない。見たくない。見たら動揺してしまうのではないかと思いました。だから私が上位にいるのは分かっていましたが、ほかの人がどんなスコアなのか最後まで知りませんでした。高まる重圧のなかで、自分を信じて自分のプレーをしようと言い聞かせ続けていたんです」と翌年の大会公式プログラムのインタビューで明かしている。一度手にしているタイトルだからこそ、酸いも甘いも知っているベテランだからこそ、日本女子プロという大会の重みをひしひしと感じていたのだろう。
46歳での優勝は大会最年長記録。さらには自身が持っていた最年長での2週連続優勝記録をも更新した。
翌03年、宮里藍が高校生で初優勝を飾り、女子ツアーは一気に様変わりしていく。若手が次々に台頭し、ベテラン勢は次第にツアーから姿を消していったのだ。40代の公式戦(日本女子プロ、日本女子オープン、LPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ、ワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップの4試合)覇者はこの大会の具以降、途絶えている。
プロフィル
具玉姫(く・おっき)1956~2013韓国出身。高校卒業後にソウル市内のゴルフ練習場に就職。その後、南ソウルCCで韓長相に師事して腕を磨き、1978年に韓国女子プロゴルフ協会の1期生となった。日本のプロテストには83年に合格。通算23勝を挙げた。米女子ツアーでもプレーし、88年に韓国人選手初めての優勝を飾っている。2013年7月、急性心不全により56歳で逝去。
第35回日本女子プロゴルフ選手権成績
順位 | 選手名 | Total | Round |
---|---|---|---|
1 | 具 玉姫 | 283 | = 68 71 71 73 |
2 | 木村 敏美 | 284 | = 69 69 73 73 |
3 | 西塚 美希世 | 285 | = 69 73 69 74 |
4 T | 高 又順 藤野 オリエ |
286 | = 73 70 72 71 = 70 67 72 77 |
6 | 小林 浩美 | 287 | = 71 71 73 72 |
7 T | 川波 由利 山口 裕子 |
288 | = 73 70 71 74 = 75 73 70 70 |
9 T | 服部 道子 不動 裕理 |
289 | = 71 71 72 75 = 73 71 69 76 |