1993年9月13日付日刊スポーツ

152センチの小兵がつかみとった日本一の座

　体が小さくても、飛距離が出なくても日本一の座を勝ち取れる。身長152センチ、出場選手中最も身長が低い原田香里が頂点に立ったのは1993（平成5）年のことだった。
　この年の会場は鳥取県の旭国際浜村温泉ＧＣ（6428ヤード、パー72）。3カ月前に悲願の日本女子オープン初優勝を飾った岡本綾子や初出場の大物ルーキー福嶋晃子らが注目を集める中、初日首位に立ったのは4アンダー、68をマークした、たにひろえ。1打差2位に安井純子と望月佳代がつけ、原田は1アンダーの5位スタートとなった。岡本は1オーバーの14位、福嶋は3オーバーの36位で初日を終えている。
　2日目はパープレーの72にまとめた安井が単独首位に立った。ただ1人の60台となる68で回った肥後かおりが20位から1打差の2位にまで急浮上した。肥後と2位に並んだのは平田充代と公式戦3冠がかかる吉川なよ子。さらに1打差の5位に原田がつけた。
　難コースにスコアを崩す選手が相次ぐ中、岡本が3日目に粘って優勝戦線に食い込んでいた。しかし、最終18番パー4で悪夢が待っていた。5番アイアンの2打目が無情にもグリーン手前の池へ消えていく。このホールはトリプルボギー。首位とは6打差に開き「最後の最後で……。何のためにあそこまで一生懸命やってきたのだろう」（日刊スポーツより）と肩を落とした。
　その18番を戦略的にボギーにまとめた選手がいた。原田だ。飛距離の出ない原田にとって413ヤードと長い18番は2打で届かせることは簡単ではない。この日、2打目は3番ウッドの距離が残った。ミスをすれば池につかまり、岡本のように大叩きする危険性もある。この時、原田は3アンダーの単独首位。「スプーン（3番ウッド）なら届く距離だけど、絶対に池を越える自信がない」（日刊スポーツより）と考えた原田は8番アイアンを選択。池の手前に刻んで確実にボギーで上がった。
　通算2アンダーは吉川、安井、高村亜紀の2位グループに3打差をつける単独首位。前年初優勝を飾ったばかりの26歳は「緊張感はありますが、楽な気持ちで18番を迎えられる展開にしたい」（報知新聞より）と語った。
　最終日、原田は「1メートルのパーパットに手足が緊張でガタガタ震えた」（スポーツニッポンより）という重圧に負けず、きっちりとパーを拾っていく。7番パー5で初バーディーを奪った後もパーを重ね、追う者にスキを見せない。そして、320ヤードと短い15番パー4で2個目のバーディーを奪って後続の追撃意欲を萎えさせた。
　3打のリードで迎えた最終18番、2打目は迷うことなく刻んだ。3打目はピン右奥5メートルにオン。優勝を決めるパーパットが、ど真ん中から沈んだ。
　ドライバーの平均飛距離は210ヤード。「私はいつもセカンドオナー」（スポーツニッポンより）と言う。それでも「ミドルアイアンには自信があります。だからイメージ通りのショットが打てます」（スポーツニッポンより）と自ら言うほどショットの精度には自信を持っていた。さらには、この試合からアイアンのシャフトをスチールからカーボンに替えて「軽めなので振りやすい。距離も少し伸びました」（日刊スポーツより）と好感触を得ていたことも優勝を後押しした。
　故郷の山口県から応援に駆けつけていた両親の前での栄冠。「公式戦で勝つのが夢、そして両親の前で優勝する姿を見せるのが夢だった」（日刊スポーツより）と感激をかみしめた。
　出場選手中一番小さい原田がつかんだ日本一の座。152センチは今なお最も小柄な日本女子プロチャンピオンとして記録に刻まれている。

プロフィル

原田香里（はらだ・かおり）1966～
山口県出身。小学校6年でゴルフを始め、高校は故郷を離れて京都の平安女学院へ。その後は日本大学に進み、4年時の1988年に全日本女子学生を制した。翌1989年にプロ入り。1992年のミズノオープンで初優勝を飾る。通算7勝。公式戦は1993年日本女子プロと同年ＬＰＧＡ明治乳業カップの2勝。現在は日本女子プロゴルフ協会理事を務める。

第26回日本女子プロゴルフ選手権成績