涂阿玉（左）とのプレーオフを制して笑顔の大迫たつ子（週刊アサヒゴルフより）

気迫のバーディーでプレーオフを制した大迫たつ子

　滋賀県の蒲生ＧＣ（5568ｍ、パー72）で開催されていた1983（昭和58）年の日本女子プロ2日目、コースに衝撃が走った。樋口久子がプロ17年目にして国内初の予選落ちを喫したのだ。
　初日に77を叩いて36位と苦戦していた樋口は2日目も立て直せなかった。17番を終えて2バーディー、7ボギー。予選カットラインの通算10オーバーで迎えた18番パー5、樋口は3打目をグリーン左奥の浅いラフに外した。ピンまでは10ｍ余り。パターを握った樋口の4打目はカップをはるかにオーバーしてしまう。生き残りをかけた5ｍのパーパットはカップの左に止まった。
　通算11オーバー、1打及ばずに予選落ちが確定した樋口はこの時37歳。「いつかはこういう日がくると思っていたが、こんな大試合で落ちたことだけは残念でならない」（日刊スポーツ紙より）と無念さをにじませた。初日83位と大きく崩れながら2日目は71をマークして辛うじて予選を突破した岡本綾子は報道陣から聞かされ「エッ、樋口さんが予選落ち！」（スポーツニッポン紙より）と絶句。森口祐子も「まさか樋口さんが……」（スポーツニッポン紙より）と驚きを隠せなかった。
　樋口が去った3日目、首位に立ったのは前年の賞金女王でこの年もここまで日本女子オープンなど6勝と好調の涂阿玉だった。通算1アンダーの2位で3日目を迎えた涂は2バーディー、1ボギーの71でプレー。2位の大迫たつ子と森口祐子に1打差をつけ「あと一日、一生懸命やるだけよ」（スポーツニッポン紙より）と言葉に力を込めた。2日目に首位に立っていた大迫は16番で4パットのダブルボギーを叩くなどしてその座を明け渡す形となり「ああ、疲れちゃった」（スポーツニッポン紙より）とがっくり。対照的に森口はこの日ベストスコアの69をマークして「最近調子が悪かったけど、きょうは不思議とアイアンとパットがよかった」（スポーツニッポン紙より）とご機嫌だった。
　涂、大迫、森口という実力者三つ巴の優勝争いは大混戦となった。アウトを終えて大迫が1アンダーで単独首位に立ち、涂と森口が1打差で追う展開。インに入って涂が12番でバーディー。大迫を捕えた。16番で森口がボギーを叩いて一歩後退。しかし、続く17番で大迫と涂がそろってボギー。再び3人が1打差内にひしめいた。最終ホールは3人ともにパー。ここで森口が脱落し、勝負の行方は大迫と涂のプレーオフへと持ち越された。
　プレーオフの舞台は16番パー3。154ｍのこのホール、先に「迷った末に4番アイアンで軽く打った」（スポーツニッポン紙より）という涂の1打は右のバンカーにつかまった。続いて大迫。5番アイアンを握り「ショートするかもしれないけど思い切って打つしかない」（スポーツニッポン紙より）と気合を込めたショットはピン左5ｍに止まるナイスショットとなった。しかし、涂はバンカーショットを80㎝に寄せる。パーはほぼ確実。大迫を楽にはしない。
　決めれば優勝のバーディーパットを前に大迫は精神を統一していた。この大会はずっとグリーン上で苦戦していた。3日目にはここ16番で4パットの屈辱を味わっている。まったく自信を持って打てていなかった。だが、ここは最大の勝負どころ。「ここまでは狙って打てなかったが、このパットだけは入れる気で打った。スライスライン、1カップ左を狙う。それだけに精神を集中した」（週刊アサヒゴルフより）。気迫の1打はど真ん中からカップに吸い込まれた。涂もこれには「むずかいしラインだったのに大迫さんの実力が出たね。負けたのもしようがない」（週刊アサヒゴルフより）と脱帽するしかなかった。
　蒲生ＧＣは3年前に日本女子プロ初優勝を飾った縁起のいい場所でもある。それ以来、2度目の女子プロ日本一の座。「アイアンの距離感が合っていたから、コースの相性がよかったのかもしれない」（報知新聞より）と大迫は充実感を漂わせた。

プロフィル

大迫たつ子（おおさこ・たつこ）1952～
宮崎県出身。中学卒業後にキャディーとして宝塚ＧＣ（兵庫県）に入社。仕事をこなしながらプロを目指し1971年にプロテストに合格した。ツアー通算45勝を挙げ、77、80、87年には賞金女王に輝く。公式戦8勝（日本女子プロ4勝、日本女子オープン2勝、ＬＰＧＡレディーボーデンカップ2勝）は歴代2位。2015年に日本プロゴルフ殿堂入り。

第16回日本女子プロゴルフ選手権成績