ゴルフドム1935年11月号（日本ゴルフ協会所蔵）

宮本がコース記録で逆転し、４度目の日本一

　1934年に広野ＧＣで開催予定だったが、関西地方を未曾有の風水害が襲い、大会が中止となったため、２年ぶりの開催になった。ゴルフドム誌1935年11月号には「その間に、プロの渡米遠征あり、国産ボールのデビューあり等して新興ゴルフ日本の躍進を物語る事実が多々あり、選手権競技に参加者が増えた」と記されている。
　大会は、1932年に駒沢から移転した東京ゴルフ倶楽部朝霞コースで、10月30日～11月１日に開催された。出場は83人で、プロ46人。18ホールの予選ラウンド２日間と決勝ラウンド36ホールの計72ホールで行われた。この年に初めて日本から米国遠征を行った宮本留吉、浅見緑蔵、安田幸吉、戸田藤一郎、中村兼吉、陳清水の６人のプレーぶりが注目されていた。
　第1日、飛び出したのは藤井武人。霞ケ関ＣＣのプロだった。アウト１オーバーの38で回り、インは11番でボギーにしたが、５バーディーを奪う33で３アンダー71をマークした。
　1933年から日本アマ３連覇を果たしている鍋島直泰が、アマチュアの期待を集めていたが、その通りの健闘をみせ75で帰ってきた。クラブハウスが沸いたという。渡米組では戸田が75で回り、宮本が77で続いた。ゴルフドム誌には「我孫子の山本（増二郎）が77を出して衆目を集めた」とある。
　第２日は藤井がいくつで上がるか、が関心の的になった。当時は順位ではなく、首位と19打差以内の選手が最終日に進む。藤井が午前を「１オーバー38でターンした情報が全コースに伝わる」とある。藤井は18番でバーディーを取り、午後は37で通算146として首位を走っていた。
　アマでは、佐藤儀一が159で最初の最終日通過者となり、成宮喜兵衛158、鍋島155とホールアウトするアマのスコアも伸びてきた。プロでは石井治作が藤井に４打差の150、戸田が151、宮本152と続いた。最終的には、35人が最終日に進んだ。アマは６人が通過し、鍋島が唯一のトップテンの7位につけた。
　最終日は36ホール。快晴無数のゴルフ日和だったという。組み合わせは抽選だった。藤井は宮本と同組、戸田と安田との組み合わせになった。
　午前の18ホール、藤井は６、14番で６をたたいたこともあって79と崩れ、225とした。宮本は74で回り、226で藤井に1打差に迫った。戸田が228、陳が229で優勝を狙える圏内にいた。
　午後の１番で藤井がトラブルに見舞われる。第１打を左バンカーに入れ、第２打で出ず、バンカー内に突き刺さった。「魔神のいたずらだろう」（ゴルフドム誌）と、アンプレアブルで結局７と叩いて、宮本に逆転を許した。そこから踏ん張ったものの、首位に立った宮本は快調に飛ばし、４アンダー70の朝霞コースのコースレコードをマークして通算イーブンパー296で４度目の日本一に輝いた。「他のプレーヤーは２人のスコアに今更手の下しようがない始末に驚嘆して自分のゲームを投げてしまった」（ゴルフドム誌）と、最後は宮本の圧勝になった。戸田が８打差で２位、藤井は３位だった。
　残念ながら、ゴルフドム誌にも当時の新聞にも宮本の優勝コメントを確認できなかった。
（文責・赤坂厚）

プロフィル

宮本留吉（みやもと・とめきち）
1902（明治35）年9月25日～1985（昭和60）年12月13日 兵庫県出身。小学生のころに神戸ＧＣ（兵庫県）でキャディーとして働きながらゴルフを覚えた。1925年に茨木ＣＣ（大阪府）でプロとなる。日本プロは第１回大会を含めて通算４勝、日本オープンは大会最多の６勝を挙げている。また、海外遠征の先駆者として道を拓き、32年の全英オープンで日本人選手初のメジャー出場を果たしている。2012年に日本プロゴルフ殿堂入り。

第8回日本オープンゴルフ選手権

参加者数　83名（アマ37名）