1963年９月21日付日刊スポーツ

戸田藤一郎、最年長48歳９カ月で24年ぶり大会Ｖ

　快挙が達成された年になった。
　９月18～20日に三重県の四日市ＣＣで行われた大会は、プロ71人、アマ27人が出場して行われた。「山城」と呼ばれる丘陵に造られた日本有数の長距離のコースと言われ、距離は7015ヤード、パー72の設定だった。
　第1日、周囲を驚かせたのがこの年49歳になる戸田藤一郎だった。日刊スポーツ紙によると、３番1メートル、４番6メートルを沈め、７番では第２打４番アイアンで30センチにつけた。８、９番では３メートル、４メートルを決め、折り返した10番では第１打をクロスバンカーに入れたが5番アイアンで1メートルにつけて４連続バーディー。この時点で６アンダーとした。老ギャラリーの声として「往年のショットそのまま、膝を使ってダウンブローに打つ姿は衰えていない」と懐かしんでいたという。12番でグリーンオーバーして唯一のボギーをたたいたが、５アンダー67はコース新記録だった。
　戸田の日本オープン優勝は、年間グランドスラムを達成した1939年が最後。第２次世界大戦をはさんで、24年の時がたっていた。３打差２位に中村寅吉、佐藤精一、石井廸夫がつけた。
　第２日、戸田は常時５～７メートルの強い風に苦戦する。「腰がふらついてどうしようもなかった」と振り返ったが、４、５番連続ボギーなど３オーバー75とスコアを落とし、通算２アンダーでホールアウトした。
　対照的に快調にプレーを進めたのが５位からスタートした石井朝夫。１、２番連続バーディーから３アンダー69をマークして通算４アンダーで首位に立った。「体重が４キロ増えて67キロになったので、ドライバーが気持ち悪いほど飛ぶんだ」と報知新聞がコメントを伝える。
　２打差２位に戸田のほか、杉原輝雄、石井廸が並び、20歳安田春雄が６位につけている。また、謝永郁が16番（195ヤード）で４番ウッドを使ってホールインワンを達成。正確な記録が残っていなかったが、関係者によると日本オープンで初めてのホールインワンではないか、としている。
　最終日の36ホールは風が収まり、絶好のコンディションで行われた。首位スタートの石井朝はパッティングが決まらず、午前のラウンドで74をたたいて後退。「最後には崩れるだろう」という下馬評を覆して戸田が70で回り、69をマークした細石憲二とともに通算４アンダーで首位に並び、１打差で杉原が追う展開になった。
　午後、杉原が２番で第1打を左ＯＢにするダブルボギーで脱落。戸田と細石の一騎打ちになった。11番でともにバーディーなど譲らず、14番パー５へ。バーディーパットは戸田が先に６メートルを入れ、細石が３メートルを外した。15番で細石が３パットし、決着がついた。戸田は通算５アンダー、最年長48歳９カ月29日での優勝は、24年という最長ブランクを乗り越えての勝利でもあった。
　戦前はグランドスラムはじめ公式戦13勝を挙げたが、戦後は1949年（昭和24）に関西オープンを制した後、所属コースでのトラブルでトーナメントから離れた。復帰したのが1959年。優勝という美酒も14年ぶりだった。周囲から祝福を受けた時に涙を浮かべていたという。「思いもよらぬ優勝だから。もう思い残すことはない。若手に刺激を与えられてよかった」と話している。
（文責・赤坂厚）

プロフィル

戸田藤一郎（とだ・とういちろう）
1914～1984年。兵庫県出身。1933年、18歳で関西オープンに勝ち、19歳で関西プロ、20歳で日本プロと若くして数々のタイトルを獲得。39年には日本プロ、日本オープン、関西プロ、関西オープンに勝ち、当時の年間グランドスラムを達成した。年齢を重ねてからも存在感を示し、63年には48歳９カ月29日の大会最年長で日本オープンに優勝し、71年には56歳で関西プロを制している。2012年に日本プロゴルフ殿堂入り。

第28回日本オープンゴルフ選手権

参加者数　98名（アマ27名）