第34回日本オープンゴルフ選手権(1969年)
2023.05.29
1969年10月5日付スポーツニッポン
米ツアー帰りの杉本英世が逆転で2度目の制覇
狭いフェアウエーと左右の林、速いグリーン。会場となった兵庫・小野GC(6980ヤード、パー72)は難コースという評判だった。9月30日から3日間、プロ92人、アマ22人が参加して行われた。第1日、そんな難コースで首位に立ったのは、コース記録タイの4アンダー68をマークした内田繁。「ショットが良かった」(スポーツニッポン紙)と振り返るように、インスタートの13番でボギーが先行したが、15番から4連続バーディー。折り返した4番で7メートルを沈めるなど、この日7バーディー、3ボギーだった。
1打差2位には石井富士夫と能田征二が並んだ。石井富は「ドライバーがすごく当たった」と話したが、池が張り出した難しい8番パー3で30センチにつけるなどショット全般が好調だった。「すべてよかった」という能田はダブルボギーもあったが、6バーディーを奪った。
第2日は朝から時折激しく雨が降った。首位スタートの内田繁は強い雨に見舞われた3番で距離が分からずグリーンオーバーするなどアウト40をたたいて後退。代わって2打差4位スタートの細石憲二が72で回って通算2アンダーで首位に立った。5度もラフに入れたが、アプローチがよく「パットが非常に気持ちよく打てた」と、2バーディー、2ボギーと粘った。
1打差2位には74だった能田が残り、2度目の優勝を目指す杉本英世や石井哲雄ら6人が並んだ。さらに1打差にはアマただ1人予選を通過してベストアマを決めた入江勉ら8人と、2打差以内に15人がひしめく大混戦になった。優勝候補筆頭だった杉原輝雄は予選落ちした。
最終日は36ホールの戦い。快晴、微風だったが、難コースに苦労した。午前18ホールでは、2アンダーで松田司郎が首位に立った。イーブンパーに内田繁、石井朝夫、島田幸作、細石らが並び、杉本が1オーバーで午後に向かった。
最終ラウンドのハーフを終わった時点で、通算2アンダーで内田繁、石井朝、杉本の3人が首位に並んだ。日刊スポーツ紙に終盤の内容が記載されている。杉本が10番で2メートルを入れて抜け出した。内田繁は11番で2メートルを決めて追いつく。しかし、13番で内田繁がバンカーに入れてボギーとし、石井朝も1つ落とした。16番パー5が勝負の分かれ目になった。杉本は第1打を右の松に当て、2打目も左のラフに行ったが、3打目で80センチに寄せた。内田繁が3メートルのバーディーを決めていったん並んだが、80センチを入れた杉本が再び突き放した。1打差のまま、杉本が通算4アンダーで1964年以来2度目の日本一に輝いた。最終ラウンドの67はコース記録だった。
「ボクが優勝するとは思っていませんでした。だから上着を持ってこず、このブレザーは借り物です。優勝できたのはコースの整備がよかったことと、ギャラリーの皆さんが懸命に応援してくださったからだと感謝しています」と、スポーツニッポン紙は優勝スピーチを掲載し「アメリカ留学で学んだ『プロのエチケット』を示したまでだった」と評している。今では普通の優勝スピーチだが、こうしたあいさつは珍しかったのだろうか。
杉本は1967年11月のハワイアンオープンで遅刻のため失格し、プロゴルフ協会から1年間の出場停止処分を受けた。その「空いた」時間で1968年の米ツアー予選会を受けて合格、日本選手として初めて米ツアーライセンスを取得し、同年は米国で戦った。その経験が、スピーチだけではなく、プレーにも生きた。
前回1964年の優勝との違いについて「前は陳清波さんの4パットに救われたりしたが、今度は自分の腕で勝ったような気がするので」と話し、自信も大きくなっていたようだ。
(文責・赤坂厚)
プロフィル
杉本英世(すぎもと・ひでよ)1938(昭和13)年2月16日生まれ、静岡県出身。子供のころは様々なスポーツで秀でた成績を残し、野球ではプロから誘われたほどだったが故郷の川奈ホテルGCでプロゴルファーを目指した。1964年の日本オープンを皮切りに日本オープン2勝、日本シリーズ1勝はじめ多くの大会を制し、68年には日本人で初めて米ツアーのライセンスを取得している。180センチ近い体を生かしたスケールの大きなゴルフで「ビッグ・スギ」の愛称で親しまれる。2015年度に日本プロゴルフ殿堂入り。
第34回日本オープンゴルフ選手権
順位 | 選手名 | Total | Round |
---|---|---|---|
1 | 杉本 英世(アジア下舘) | 284 | = 73 70 74 67 |
2 | 内田 繁(春日井) | 285 | = 68 76 73 68 | 3 | 内田 袈裟彦(関東PGA) | 286 | = 76 72 69 69 |
4 | 石井 朝夫(中山) | 287 | = 72 72 72 71 |
5 T | 柳田 勝司(小倉) 細石 憲二(下関) 島田 幸作(宝塚) |
288 | = 75 70 71 72 = 70 72 74 72 = 74 70 72 72 |
8 | 松田 司郎(鳴尾) | 289 | = 74 69 71 75 |
9 T | 陳 健忠(サザンクロス) 栗原 甲子男(小金井) 木本 与(関西PGA) |
290 | = 75 71 74 70 = 73 76 72 69 = 76 74 71 69 |
参加者数 116名(アマ24名)