第5回日本オープンゴルフ選手権(1931年)
2022.03.10
優勝した浅見のティーショット(ゴルフドム1931年12月号=日本ゴルフ協会所蔵=より)
兵役のブランクを乗り越えて浅見緑蔵が公式戦3冠を達成
宮本留吉が1アンダー、287という驚異的なスコアで2位に19打差をつけて大会連覇を飾った1930(昭和5)年大会に浅見緑蔵の姿はなかった。その前年も浅見は日本オープンに出場していない。1928(昭和3)年の12月から約2年間、兵役で習志野(千葉県)の近衛騎兵隊に配属されていたのだ。日本オープンと日本プロに勝ち、20歳にして頂点に上り詰めた矢先の兵役だった。浅見は兵役中も素振りは欠かさなかった。もちろんクラブはないから木の棒や箒を使っての素振りである。また、左手を鍛えることも常に心がけていた。ゴルフが頭の中から離れることはなかった。
除隊後、浅見は2年間の空白を埋めるべく、1日1000回の素振りを敢行したという。1931年8月、組織されたばかりの関東プロゴルフ協会が開催した第1回関東プロが浅見の復帰戦となった。マッチプレーのトーナメントを勝ち上がり、決勝で安田幸吉を11&10の大差で破って復活優勝を飾った。10月26日から28日まで行われた日本プロでも決勝で陳清水を6&5で圧倒。ブランクを感じさせないゴルフを見せつけた浅見は日本プロから中2日で日本オープンに臨んだ。会場は自らの所属コースである程ヶ谷CC(神奈川県)だった。
程ヶ谷CCで日本オープンが開催されるのは第1回大会以来4年ぶりである。6170ヤード、パー70は第1回大会と同じだが、ゴルフ誌のゴルフドムは「最近バンカーがアリソン流に改造されてグリーンの守り巧妙かつ厳重でチャンピオンのテストに充分である。」(一部現代語訳)と難易度が上がったことを記している。
10月31日の初日、好スコアが続出する。浅見は最初の9ホールでいきなり31を叩き出し、後半は36にまとめて第1ラウンドは67だった。4年前は4ラウンドのベストスコアが76だったから長足の進歩である。安田幸吉が68で続く。安田は4年前に一度も80を切れなかった身だ。コースの難易度が上がったことなど関係ないくらい選手たちの技量が高くなったことがうかがえる。
初日の後半、浅見はややペースダウンしたものの70で回った。通算3アンダーの137で首位である。4打差の2位には第2ラウンドで68をマークした宮本留吉がつけた。5打差の3位は安田である。
快晴の最終日、大会3連覇がかかる宮本は第3ラウンド前半で33をマークし、36の浅見に1打差に迫る。安田も33。混戦模様となった。
だが、インに入ると流れは浅見に傾く。宮本、安田はともに40と崩れ、浅見は35。浅見と宮本の差は6打、安田との差は7打に広がった。
続く最終ラウンド、宮本は5番パー5でイーグルを奪うなど33で回るが、浅見も35でまとめて4打のリードで最後の9ホールに入った。安田は38と後退。浅見を追うのは宮本1人となった。
最終ラウンド後半、浅見はパーを続けてスキを見せない。勝利を濃厚にして迎えた17、18番は乱れたが38で最終ラウンドは73。宮本に4打差をつけて3年ぶりの大会2勝目を挙げた。ただ、直近の2年は出場していないから、出場2大会連続優勝という言い方もできる。
72ホールのスコアは1オーバーの281である。ストローク数では前年宮本が記録した287を6打も塗り替える大会新記録となった。宮本も前年の自分のスコアを2打更新した。
浅見は関東プロ、日本プロに続く3連勝となった。当時は関西オープンと関西プロもあったが関東の浅見は出場できない。関東オープンが創設されるのはまだ先のことで関東の選手が出場できる関東プロ、日本プロ、日本オープンの3大会を同じ年にすべて制したのである。関西の選手でも同じ年に3つのタイトルを手にしたことはなかった。つまり、浅見は日本プロゴルフ史上初の年間3冠という快挙を兵役のブランクを跳ね返して成し遂げたのだ。
(文責・宮井善一)
プロフィル
浅見緑蔵(あさみ・ろくぞう)1908(明治41)年8月20日~1984(昭和59)年6月19日。
東京都出身。子供のころに東京GC駒沢Cでキャディーを始め、18歳の時、程ヶ谷CCでプロとなる。2年後の1928年に日本オープンと日本プロで最年少優勝。兵役を経て31年には日本プロ、日本オープン、関東プロの公式戦3冠を達成した。同年には宮本留吉、安田幸吉とともに初の米国遠征メンバーに選ばれている。また、日本プロゴルフ協会設立(57年)に尽力し、63年から同協会の第2代理事長(現会長職)を務めた。主な戦績は日本プロ、日本オープン、関東プロ各2勝。2012年日本プロゴルフ殿堂入り。
第5回日本オープンゴルフ選手権
順位 | 選手名 | Total | Round |
---|---|---|---|
1 | 浅見 緑蔵(程ヶ谷) | 281 | = 67 70 71 73 |
2 | 宮本 留吉(茨木) | 285 | = 73 68 73 71 |
3 | 安田 幸吉(東京) | 292 | = 68 74 73 77 |
4 | 森岡 二郎(鳴尾) | 300 | = 71 72 73 84 |
5 | 中村 兼吉(藤沢) | 302 | = 74 72 77 79 |
6 | 村上 義一(川奈) | 305 | = 80 76 75 74 |
7 T | 柏木 健一(舞子) 小杉 広蔵(東京) |
308 | = 77 76 78 77 = 72 81 76 79 |
9 | 石角 武夫(鳴尾) | 309 | = 74 79 76 80 |
10 | 小池 国喜代(霞ヶ関) | 316 | = 76 79 77 84 |
参加者数 42名(アマ17名)